20080622 日本経済新聞 朝刊

 六月中旬、米JPモルガン・チェースの法人向け金融サービス部門を率いるハイディ・ミラー氏が日本拠点を初めて訪れた。銀行と証券を融合したサービスの強化に向け、日本拠点の幹部と議論するためだ。
 折しも日本は銀証のファイアウオール(業務隔壁)規制などを緩和する改正金融商品取引法が成立した直後。「銀行の為替と証券会社の債券の業務を融合できれば、顧客に外債投資と為替ヘッジを同時に提案できる」(中西健治・JPモルガン証券副社長)。ダイモン最高経営責任者(CEO)の片腕とされるミラー氏の来日をきっかけに、日本のJPモルガンは改正金商法時代のビジネスモデル探しを始めた。
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 銀行や証券など市場の担い手を育て、約千五百兆円の個人金融資産を有する東京市場の活性化を目指す金商法の改正。海外勢が布石を打つ動きはゆっくりと広がっている。
 百四十億ドルの資産を持つ英運用会社、ミレニアム・グローバルはこのほどアジアのなかで三番目の拠点を東京に設けた。「日本は個人金融資産の活用や市場育成に向けて政府がコミットメントを示した。千五百兆円のお金はやがて動き出すはず」。東京代表の斎田憲男氏は政策への期待をこう語る。
 改正金商法で肉付けされた東京市場の活性化は昨年来、多方面で議論されてきた。相場の上昇や取引の増加など市場のテコ入れ策だけでなく、金融を産業として育て雇用と税収を増やすという、金融立国論も問題意識の中心だった。海外勢が政策を信じて新業務の立ち上げや拠点づくりに動く様子は、金融立国へのささやかな一歩だ。
 深い影を投げているのが、米国発の金融不況だ。シティグループは中核事業の見直しの一環として、日本の消費者金融から事実上の撤退を決めた。先週には二千人弱の従業員に希望退職に向けた退職金や再就職支援の条件を提示した。モルガン・スタンレー証券は二月と四月の二度に分け、証券化部門を五十人余り減らした。「一度目は証券化市場の混乱への応急策。二度目はグローバルな不況への対応。二度目のほうが意味合いは深刻だ」(モルガン幹部)
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 世界の金融機関のリストラでは「業界全体で約九万人の雇用が犠牲になっている」(欧州系証券の在日代表)。米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題の影響が軽い日本の割合は五%弱という。人員削減が金融不況の長期化を見込んでのことなら、東京に回す人とカネもやがて先細りする。
 金商法の改正で海外株価指数などに連動する上場投資信託(ETF)も増える見通し。ETFが活発に売買されるには金融機関の協力も欠かせない。ETFの売買や商品開発の経験に勝る外資が東京拠点の大幅な縮小に転じれば、法改正の実効はあがらない。
 日本版ビッグバン以来、約十年ぶりの広範な規則見直しとされる金商法の改正。十年前はネット革命に沸く米国が世界経済を引っ張り、外資の進出も進んだ。今のグローバルな金融不況に揺れる市場活性化の行方は、決して楽観できない。
【図・写真】リストラを急ぐシティ=写真上、AP=と、東京拠点の強化に動くJPモルガン