20080620 日経産業新聞
月に二回、横浜市南区にあるグループホームで入所者の笑顔が見られる日がある。和田歯科医院(横浜市)が実施する訪問歯科診療の日だ。通院できない高齢者らを対象に、自宅や施設などを訪問して治療している。
認知症の高齢者ら十八人が暮らすグループホーム。和田真澄院長は歯科衛生士の二人と診察にあたり、運び込んだ四つの工具箱から治療用具を取り出す。箱には入れ歯用器材やレントゲン撮影機材がそろっている。和田院長は「すべての治療に対応できるようにしている」と明かす。
「具合はどう?」「きれいにしてるね」。アロハシャツにジーンズ姿の和田院長が気さくに声をかけると、入所者の顔も自然とほころぶ。約四十分で入れ歯の調整や口腔(こうくう)状態の確認など六人を診察した。
グループホームの所長は「認知症だと、知らない人と一緒にいたり、診察でイスを倒されたりすると恐怖感を抱く。来てもらえれば入所者もふだん通りに接することができ、助かる」と話す。
訪問先はグループホームや障害者施設など南区を中心に四施設。個人宅の約七十人も診ており、「周りの歯科医はこんなに診察していない」(和田院長)。医師二人、歯科衛生士四人が担当し、多い日には十五人を診察する。休日返上で治療にあたることもある。
和田歯科医院は一九八八年に開業した。訪問歯科診療を始めたのは五年後の九三年。かかりつけ患者が別の病気で通院できなくなったことがきっかけだ。和田院長は「自分の患者は最後まで責任持って診るべきだ」と話すが、当時は訪問診療が珍しかったという。
それから十五年間。訪問歯科診療にこだわるのは、丈夫な歯を長く保つためには口腔ケアが欠かせないからだ。「歯磨きを続けると口の周りの筋肉が鍛えられ、歯を長く保てる」と指摘する。
二年前まで南区の歯科医師会で理事を務め、口腔ケアの必要性を講演などで主張した。介護保険制度が始まったこともあって訪問歯科診療が増え、ピーク時は南区にある歯科診療所のうち約四割にあたる四十四施設が実施していた。
ところが二〇〇二年の改定で報酬が引き下げられ、訪問歯科診療は激減した。南区でも十五施設まで減ったため、和田院長の往診は逆に週一日から三日に増えた。それでも続けるのは「訪問しか対応できない患者がいる」から。高齢化社会では訪問歯科診療の重要性が増すと訴える。「口腔ケアはトータルの医療費抑制にもつながる」
厚生労働省によると、全国の歯科診療所は〇五年十月時点で約六万六千カ所。うち訪問歯科診療を手がけるのは約一万二千カ所。和田院長は「在宅で口腔ケアもしているのはその五%前後にすぎない」と分析する。
和田院長には訪問歯科診療の依頼が絶えない。「対応可能な患者数も限りがある。担い手となる歯科医が増えてほしい」と願っている。
(横浜支局 岩本圭剛)
【図・写真】福祉施設や個人宅などを訪問し、患者を診察する(横浜市)
【図・写真】和田真澄院長
月に二回、横浜市南区にあるグループホームで入所者の笑顔が見られる日がある。和田歯科医院(横浜市)が実施する訪問歯科診療の日だ。通院できない高齢者らを対象に、自宅や施設などを訪問して治療している。
認知症の高齢者ら十八人が暮らすグループホーム。和田真澄院長は歯科衛生士の二人と診察にあたり、運び込んだ四つの工具箱から治療用具を取り出す。箱には入れ歯用器材やレントゲン撮影機材がそろっている。和田院長は「すべての治療に対応できるようにしている」と明かす。
「具合はどう?」「きれいにしてるね」。アロハシャツにジーンズ姿の和田院長が気さくに声をかけると、入所者の顔も自然とほころぶ。約四十分で入れ歯の調整や口腔(こうくう)状態の確認など六人を診察した。
グループホームの所長は「認知症だと、知らない人と一緒にいたり、診察でイスを倒されたりすると恐怖感を抱く。来てもらえれば入所者もふだん通りに接することができ、助かる」と話す。
訪問先はグループホームや障害者施設など南区を中心に四施設。個人宅の約七十人も診ており、「周りの歯科医はこんなに診察していない」(和田院長)。医師二人、歯科衛生士四人が担当し、多い日には十五人を診察する。休日返上で治療にあたることもある。
和田歯科医院は一九八八年に開業した。訪問歯科診療を始めたのは五年後の九三年。かかりつけ患者が別の病気で通院できなくなったことがきっかけだ。和田院長は「自分の患者は最後まで責任持って診るべきだ」と話すが、当時は訪問診療が珍しかったという。
それから十五年間。訪問歯科診療にこだわるのは、丈夫な歯を長く保つためには口腔ケアが欠かせないからだ。「歯磨きを続けると口の周りの筋肉が鍛えられ、歯を長く保てる」と指摘する。
二年前まで南区の歯科医師会で理事を務め、口腔ケアの必要性を講演などで主張した。介護保険制度が始まったこともあって訪問歯科診療が増え、ピーク時は南区にある歯科診療所のうち約四割にあたる四十四施設が実施していた。
ところが二〇〇二年の改定で報酬が引き下げられ、訪問歯科診療は激減した。南区でも十五施設まで減ったため、和田院長の往診は逆に週一日から三日に増えた。それでも続けるのは「訪問しか対応できない患者がいる」から。高齢化社会では訪問歯科診療の重要性が増すと訴える。「口腔ケアはトータルの医療費抑制にもつながる」
厚生労働省によると、全国の歯科診療所は〇五年十月時点で約六万六千カ所。うち訪問歯科診療を手がけるのは約一万二千カ所。和田院長は「在宅で口腔ケアもしているのはその五%前後にすぎない」と分析する。
和田院長には訪問歯科診療の依頼が絶えない。「対応可能な患者数も限りがある。担い手となる歯科医が増えてほしい」と願っている。
(横浜支局 岩本圭剛)
【図・写真】福祉施設や個人宅などを訪問し、患者を診察する(横浜市)
【図・写真】和田真澄院長