20080619 日本経済新聞 朝刊
厚生労働省は十八日にまとめた報告書で、医師不足解消を進める政策を打ち出した。女性医師の活用や臨床研修制度の見直しで、安心して医療サービスが受けられる体制づくりを目指す。ただ特定の分野に医師が偏る状況を改善しないまま、医師数を増やせば医療費の無駄が拡大する恐れがある。医師数増は徹底した医療の効率化が前提になる。(1面参照)
十八日開いた「安心と希望の医療確保ビジョン」会議で舛添要一厚労相は、「(報告書で)新しい医療体制の構築に向かって方向付けできると確信している」とあいさつ。勤務医の労働環境の改善や救急医療の体制を整備する考えを示した。
政府は二〇〇七年度から一一年度の五年間で社会保障費の自然増加分を合計一・一兆円抑制する方針。しかし厚生労働省は医師不足対策をテコに事実上これを撤廃し、〇九年度予算で社会保障費の拡大を狙う。
地方で不足深刻
医師数全体は徐々に増えている。医師は設備の整った都市部の大病院や、皮膚科開業医など特定の診療科に集中する一方で、地方の中堅病院や産科・小児科、救急部門で不足は深刻化するなど、偏りが目立つ。
最近は高齢化による患者増や、医療の高度化・専門化が進み、偏在だけでなく、医師総数が不足しているとの声が強まっている。報告書では医師の偏りの是正に加えて、医師総数が不足していることを認め、養成数増を打ち出した。
不足がちな産科や小児科の勤務医を増やすため、女性医師の積極活用を進める。女性医師は産科・小児科で主力を担うが、結婚や出産を機に辞めるケースが多い。短時間だけ働く正職員制度の導入や病院内の保育所の充実などを進める。助産師を増やし産科の医師と連携してケアできる体制も整える。
許可制の廃止も
今は麻酔科医となるのには国の許可が必要だが許可制を廃止する方向で見直す。救急医療の体制整備に向け診療所の医師が夜間や休日も外来患者を受け入れるように支援する施策も検討する。
若い医師が都市部や特定の病院に集中する一因となった臨床研修制度も見直す。今は研修医が研修先の病院を選べる仕組み。医師不足の診療科や病院に積極的に医師を派遣した医療機関に手厚く補助金を配分する仕組みも導入する。狭い専門分野だけでなく、一人で幅広い診察ができる「総合医」の育成も支援する。
医師がより多くの患者を診断できるようにする案も盛り込んだ。現在は省令で「病院の外来患者四十人につき医師を最低一人置く」との規制があるが、撤廃を含めて検討する。病院の実態に見合った医師数確保ができるようにする。
大学の医学部定員を増やしても、現場の医師数が増えるのには十年程度の期間がかかる。割安な後発医薬品の普及促進や診療報酬のオンライン請求による医療の効率化などは緒に就いたばかり。社会保障費を抑制する努力を怠ったままで医師不足対策を優先させれば、財政規律を損ない次世代にツケを回すことになりかねない。
医師不足の解消とともに、医療の無駄を減らす効率化を一段と進める必要がある。
【図・写真】「安心と希望の医療確保ビジョン」会議であいさつする舛添厚労相(右)(18日、厚労省)
厚生労働省は十八日にまとめた報告書で、医師不足解消を進める政策を打ち出した。女性医師の活用や臨床研修制度の見直しで、安心して医療サービスが受けられる体制づくりを目指す。ただ特定の分野に医師が偏る状況を改善しないまま、医師数を増やせば医療費の無駄が拡大する恐れがある。医師数増は徹底した医療の効率化が前提になる。(1面参照)
十八日開いた「安心と希望の医療確保ビジョン」会議で舛添要一厚労相は、「(報告書で)新しい医療体制の構築に向かって方向付けできると確信している」とあいさつ。勤務医の労働環境の改善や救急医療の体制を整備する考えを示した。
政府は二〇〇七年度から一一年度の五年間で社会保障費の自然増加分を合計一・一兆円抑制する方針。しかし厚生労働省は医師不足対策をテコに事実上これを撤廃し、〇九年度予算で社会保障費の拡大を狙う。
地方で不足深刻
医師数全体は徐々に増えている。医師は設備の整った都市部の大病院や、皮膚科開業医など特定の診療科に集中する一方で、地方の中堅病院や産科・小児科、救急部門で不足は深刻化するなど、偏りが目立つ。
最近は高齢化による患者増や、医療の高度化・専門化が進み、偏在だけでなく、医師総数が不足しているとの声が強まっている。報告書では医師の偏りの是正に加えて、医師総数が不足していることを認め、養成数増を打ち出した。
不足がちな産科や小児科の勤務医を増やすため、女性医師の積極活用を進める。女性医師は産科・小児科で主力を担うが、結婚や出産を機に辞めるケースが多い。短時間だけ働く正職員制度の導入や病院内の保育所の充実などを進める。助産師を増やし産科の医師と連携してケアできる体制も整える。
許可制の廃止も
今は麻酔科医となるのには国の許可が必要だが許可制を廃止する方向で見直す。救急医療の体制整備に向け診療所の医師が夜間や休日も外来患者を受け入れるように支援する施策も検討する。
若い医師が都市部や特定の病院に集中する一因となった臨床研修制度も見直す。今は研修医が研修先の病院を選べる仕組み。医師不足の診療科や病院に積極的に医師を派遣した医療機関に手厚く補助金を配分する仕組みも導入する。狭い専門分野だけでなく、一人で幅広い診察ができる「総合医」の育成も支援する。
医師がより多くの患者を診断できるようにする案も盛り込んだ。現在は省令で「病院の外来患者四十人につき医師を最低一人置く」との規制があるが、撤廃を含めて検討する。病院の実態に見合った医師数確保ができるようにする。
大学の医学部定員を増やしても、現場の医師数が増えるのには十年程度の期間がかかる。割安な後発医薬品の普及促進や診療報酬のオンライン請求による医療の効率化などは緒に就いたばかり。社会保障費を抑制する努力を怠ったままで医師不足対策を優先させれば、財政規律を損ない次世代にツケを回すことになりかねない。
医師不足の解消とともに、医療の無駄を減らす効率化を一段と進める必要がある。
【図・写真】「安心と希望の医療確保ビジョン」会議であいさつする舛添厚労相(右)(18日、厚労省)