20080615 日本経済新聞 朝刊

 政府・与党は十二日、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の運用見直し策を決めた。低所得者の保険料負担を減らすことなどが柱で「自分は軽減対象になるのだろうか」と気をもむ人が多いだろう。また十三日には多くの人の年金から二回目の保険料が天引きされた。後編では複雑な保険料を「どう計算するのか」を解説する。
 「各種控除を差し引かずに三十三万円の控除だけで保険料を計算するのはふに落ちない」(兵庫県の女性、75)、「自分の保険料は国民健康保険(国保)に比べ下がったが、六十九歳の妻の国保保険料の通知が来ないので、二人合わせると負担はどうなるのか」(奈良県の男性、77)。
「旧方式」に戸惑い
 後期高齢者医療制度について日経生活者モニターにアンケート調査を行ったところ、多くの読者が保険料の計算方法や負担の増減について疑問や不安を抱いていることがわかった。
 国保から後期高齢者医療制度に移行した高齢者世帯の保険料負担の増減について、厚労省が六月はじめに発表した全国調査によると(1)六九%の世帯で負担が減少(2)年金収入が年百七十七万円未満の低所得世帯の三九%は負担が増加――などの実態が明らかになった。だがこれはあくまでもモデル世帯を基にした集計だ。
 後期高齢者医療制度の保険料は「所得割」と「均等割」の合計からなる「二方式」で計算する(図A参照)。「自分の保険料がいくらになるか」、「政府が打ち出した新たな保険料軽減措置の対象となるかどうか」を知るには、この所得割と均等割の仕組みを理解することが必要だ。
 七十五歳以上の高齢者の多くが昨年度まで入っていた国保の保険料算出方法は、市町村により異なる。東京二十三区は後期高齢者医療制度と同じ二方式だが、それ以外の方式を採用する自治体も少なくなかった。後期高齢者医療制度は二方式に一本化したため、計算やほかの地域との比較はしやすくなった。
 ただ冒頭の女性のように、所得割の求め方にとまどいを覚える人が少なくない。女性は神戸市在住。国保の場合、神戸市や東京二十三区などは所得割の計算で、住民税額に一定料率を掛ける「住民税方式」をとっていた。住民税方式ならば、医療費控除や雑損控除など各種控除があれば住民税額が下がり、結果として保険料も下がる。
 一方、後期高齢者医療制度では、総所得から基礎控除額の三十三万円を引いた額である「旧ただし書き所得」を所得割の計算に使う。社会保険料控除や扶養控除などは勘案されず、住民税方式より低所得者も対象になりやすい。
 これまでは旧ただし書き所得がある人は原則、所得割が発生することになっていた。だが十二日に導入が決まった軽減措置により、旧ただし書き所得が十五万円から五十七万円程度の人については二〇〇八年度は五〇%の軽減対象となる。〇九年度も二五―一〇〇%の軽減となる見通しだ(図C参照)。
元被扶養者は注意
 保険料のもう一つの柱は均等割。低所得者に対して二〇―八五%(〇八年度)の軽減措置が設けられている(図B参照)。七十五歳以上の高齢者がいる世帯のうち五割前後が軽減措置の対象だ。
 軽減対象となるかを判定する際の所得は、世帯内の被保険者と世帯主の所得を合計した額になる。また六十五歳以上の年金受給者については、公的年金控除だけでなく十五万円の高齢者特別控除も含めて計算する(注意(1))。
 図Bの右側に挙げた例のように、世帯イは総所得が五〇%減額基準を下回るため、夫も妻も均等割が五〇%減額される。一方で世帯ロは、母親の年金収入は七十万円だが、同居する世帯主の息子の所得が高いため、母親は減額措置を受けられない。
 税理士で社会保険労務士でもある佐藤正明さんは「保険料は個人から徴収するのに、減額の判断だけ世帯主義の考えが入っている」と指摘する。政府・与党は世帯単位でなく個人の所得で判定する案も検討したが、今回は先送りした。
 世帯ロの場合、母親の保険料を減らす手段として「世帯分離」がある。市区町村に「世帯分離届」を提出し、息子と母親の双方が世帯主になるのだ。一つ屋根の下に複数世帯があることは禁じられていない。同居したまま母親の保険料負担を減らすことが可能だ。
 これまで政府管掌健康保険や健保組合、共済組合の被扶養者だった人も注意が必要だ。〇八年四―九月の半年間は保険料が徴収されていない。十月以降、〇九年三月までの半年間は、均等割が九〇%減額される。政府・与党は〇九年度以降も九〇%軽減を継続する案を検討していたが、今回は見送った。このままいけば、〇九年四月以降は均等割の五〇%を負担することになる。
 今年四月に後期高齢者医療制度保険料の通知を受けとった人は、通知書に「仮徴収額」とあるのに気が付いただろう。四月、六月、八月に年金から天引きされる保険料は、二〇〇六年の所得を基に計算した保険料だ。七月中旬には、〇七年の所得で計算し直した本徴収の通知書が市区町村から届く。
 〇六年に比べて〇七年の所得が大きく増減した場合は、十月以降の保険料は仮徴収額から変化する。また新たな軽減策によって、保険料計算のシステム変更を余儀なくされる広域連合では、混乱も予想されそうだ。東京都後期高齢者医療広域連合は九日、「被保険者にとってさらに分かりにくい制度となる恐れがある」として、十分な周知と準備期間を求める要望書を舛添要一厚労相に提出した。
 社会保険労務士の望月厚子さんは「天引き額がどう増減するか、間違いはないかしっかり確認して欲しい」とアドバイスする。疑問点があれば、広域連合の窓口や自治体に問い合わせることも大事だ。
(手塚愛実)
【図・写真】さらに複雑さを増した制度に、高齢者からはわかりづらいという声があがる