20080613 日本経済新聞 朝刊

 四月に始まった高齢者医療制度の見直し案を自民、公明の両与党と政府が決めた。制度への悪評はこの二カ月半の間、いっこうに収まらない。それを意識して、見直し案は高齢層の負担軽減策が中心になった。
 年金受取額が極端に少ない人の保険料軽減策を拡充するのは、やむを得まい。だが目先の負担軽減ばかりを優先すれば国の財政運営が圧迫される。必要になる財源をどう工面するのか、はっきりしない面もある。市区町村が県単位で組織する「広域連合」が独自に軽減策を導入するのはよいとしても、国が一律にばらまき的に対応するのは慎むべきだ。
 目先の負担軽減の典型は、七十―七十四歳の人が病院や診療所にかかったときに払う窓口負担の引き上げを見送ることを検討課題とした点だろう。この年齢層の窓口負担は原則一〇%だが、二〇〇九年四月から二〇%に引き上げる予定だ。
 実は、本来の引き上げ時期は今年四月だった。昨秋に政府・与党が一年先送りすると決め、〇七年度の補正予算で財源を手当てした。
 また同じことを繰り返そうとしているわけだ。七十代前半の人に二〇%の窓口負担を課すのが酷だと考えるなら、毎年度の補正予算に頼るのではなく、堂々と制度を変更して一〇%負担を恒久化するのが筋だ。
 七十五歳以上の後期高齢者制度の見直しに乗じて、人気取りのために七十代前半の負担引き上げも回避しようとしているのではないか。その場しのぎはよくない。
 背景には高齢者への負担に強く反対する野党の姿勢がある。うば捨て山のような制度だと繰り返し、先の展望がないままに四党共同で制度廃止法案を参院へ提出、可決した。これは極めて無責任なやり方である。
 この戦術はこれまでのところ成功している。与党は四月の衆院山口2区補選に続き、今月八日の沖縄県議会選にも負けた。古賀誠自民党選対委員長の「理ではなく情の問題になっている」との指摘は的を射ている。来るべき衆院選を考えると、ばらまきに走りたくなる気持ちも分からないでもない。しかし、それでは制度の運営責任は果たせない。
 高齢者が使う医療費は長寿化や医療技術の革新によって今後さらに増えざるを得ない。社会保険料や消費税などによるその負担を、各世代がどう分かつかは重要な政策課題だ。なぜ高齢層にも相応の負担を求めてゆかざるを得ないのか、政府・与党は新制度の考え方を有権者に丁寧かつ粘り強く説明し、理解を求める努力を惜しんではならない。