20080606 日本経済新聞 朝刊

 与野党でたばこ税の引き上げを求める動きが活発になってきている。一箱三百円程度のたばこを増税で千円程度に引き上げ、国際価格に近づける案が浮上している。今秋には基礎年金の国庫負担割合引き上げのため二兆三千億円の財源が必要。社会保障費の増加圧力も高まるなかで、政府・与党内に広がる消費税増税の動きを封じる狙いもありそうだ。ただ「困ったときのたばこ税」には反発も多く、曲折は必至だ。
 紙巻きたばこには、たばこ税、たばこ特別税など一本当たり約八・七円のたばこ関連税がかかっている。一箱(二十本入り)なら約百七十五円の税が課されている。たばこ税収は国・地方合わせて年間約二兆二千億円だが、仮にたばこ税を引き上げて一箱千円にすれば、さらに八兆円程度の税収増になる計算だ。
上げ潮派が着目
 仕掛け人は自民党の中川秀直元幹事長だ。同党の茂木敏充氏や民主党の前原誠司副代表らに働きかけ、来週中にも超党派の議員連盟創設に向けた準備会合を開き、「たばこ一箱千円」を推進する考えだ。中川氏は消費税増税に反対して経済成長で財政再建を目指す「上げ潮派」の代表格。議連結成の動きの背景には今秋の税制抜本改革がある。
 税制改革では基礎年金の国庫負担割合の引き上げをにらみ、消費税増税が焦点となる。上げ潮派が消費税増税を回避するには、別の巨額財源が必要。特別会計の余剰金「霞が関埋蔵金」の発掘と並んで、たばこ増税は上げ潮派の「財源」の一つと目されている。
 町村信孝官房長官は五日の記者会見で「千円でも一万円でも吸うという人も一定比率いる、となるとそれなりの税収増だ」と指摘。ただ一方で「消費税がどうという話ではない」とも語った。十一日に「一箱千円」に関する超党派の勉強会を開く尾辻秀久参院議員会長も五日の記者会見で「(消費税増税とは)全く別個のことだ」と強調した。両氏は消費税率引き上げ論者。消費税増税を封じる目的のたばこ増税の動きをけん制した発言だ。
 民主党の前原副代表や小宮山洋子氏らは五日、中川氏との議連発足に向けて国会内で対応を協議。議連名に「たばこ増税」を含めると日本たばこ産業(JT)などの反発が強まるため、健康対策を掲げる方針で一致。会合では「たばこ増税は政府保有のJT株下落につながる」との声もあり、与党に比べると慎重だ。ただ消費税増税を避けて社会保障の財源を増やすには「たばこ税ぐらいしか見当たらない」という本音も見え隠れする。
販売数量は減少
 過去を振り返ると、一九九八年に旧国鉄の長期債務処理などの財源にあてるとして「たばこ特別税」が創設され、二〇〇三年、〇六年は国債などの発行抑制のために、たばこ税率が引き上げられた。ただ、たばこの販売数量は減少を続けており、増税すれば消費量がさらに落ち込むとみられている。増税しても思惑通り税収が増えるかも不透明だ。
 国際価格に比べて安いとはいえ、関連業界や消費者の反発は必至とみられる。「取りやすいところからとる、という安易な増税議論は疑問で反対だ」とJTのIR広報部は五日、コメントした。
【図・写真】中川秀直自民元幹事長