20080604 日本経済新聞 夕刊

 生活習慣病を予防しようと、四月からいわゆるメタボ健診(特定健康診査)が始まった。ただ、予防には地道な生活改善が必要で、すぐに効果は実感しにくい。どうしたらやる気を継続させられるか、社員も企業も試行錯誤が続いている。
 「昔はスポーツマン。運動したいと思っていた」。スポーツ用品製造、デサントの東京経理・管理課の新井靖男さん(49)はこう話す。自宅での体操を促したり、毎日の食事の摂取カロリーを計算したりする専用端末を会社から借り、二〇〇七―〇八年の三カ月間、メタボ改善に励んだ。
 体操のほか、余裕があるときは徒歩通勤を五十分間こなしたところ、体重が三・三キログラム減って、七十三キロになった。しかし、その後仕事が立て込んでしまい「運動不足になって一キロリバウンドした。雨や暑さの厳しい季節はどうしても徒歩通勤しにくいから、続けていくのが難しい」と痛感している。
一過性のリスク
 「打ち上げ花火のようだった」。IT企業勤務、Aさん(33)の職場では最近、全社員が約三カ月間歩数計を持ち、歩数を部署間で競うイベントがあった。歩数情報はサイトに登録。成績上位の部署には商品も出たため、各部門とも張り切ったが、「イベントが終わったらそれっきり」。
 Aさんも期間中、二駅分歩くこともあったが、今は歩数計をつけていない。「継続が大切なのはわかるが、自分はまだメタボ健診を義務付けられた年齢ではないし」と苦笑する。
 特定健診開始に前後して、多くの企業が社員の健康促進に取り組んだ。生活習慣病やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防のカギは、食事と運動。毎日のことだけに、強い意志がないと続けにくい。内閣府の〇八年二―三月の調査でも、半年以上継続している人は約三〇%にとどまっている。
 また、しっかり継続したとしてもすぐに効果が出るとも限らない。顧客向けに売り出そうと、〇七年まず自社でメタボ改善プログラム「さよならメタボ」に取り組んだ給食大手、シダックス。希望者百十四人に半年間面談や携帯電話などを通じて食事、運動指導を行った。
 その結果、腹囲のほか、血圧、血糖値などのうち一項目でも改善した人は約四割にのぼったが、「もう少し成果が出ると思った」と同社総合研究所所長の高戸良之さんは振り返る。体質には個人差があり、一律に結果は求めにくいようだ。
危機感まだ低く
 どうしたら継続できるだろうか。特定健診でリスクがあると診断されると特定保健指導を受けることになるが「該当者がきちんと指導を受けるか、指導後も健康を意識するか、気にかかる」。NEC事業支援部勤労マネージャーで、メタボ対策を担当する田代康彦さんはこう漏らす。
 健康問題はプライバシーにかかわるため、会社として強く呼びかけはしても、無理強いはしにくい。全員の特定健診が終わるのは〇九年三月。「社内ではまだまだ危機感が浸透していない。最後は本人の自覚次第」と話す。
 もちろん、打てる手は打っている。若いうちから健康を考えてもらおうと、NECでは健診が義務付けられていない三十歳と三十五歳の社員にも健診を課す。
 さらに家族ぐるみで取り組めるよう、家庭でもできる体操プログラムも社員向けサイトに配信する予定だ。
 一歩踏み込む会社もある。全日本空輸はメタボ該当者対象の「生活習慣改善プログラム」の指導費用を、本人が三割負担するよう求めている。「そうでもしないとやる気が起きないかもしれない。メタボではない人の費用負担を減らす配慮でもある」と同社健康保険組合事務長の黒川雅之さん。
見直しの契機に
 そもそも、健康で気をつけるべきはメタボだけではない。全日空は家族も読むパンフレットで婦人科や人間ドックの案内も記載し、注意をうながす。「あらゆる病気の早期発見につなげてほしい」(黒川さん)という狙いだ。
 「食べ過ぎや運動不足は確かに問題だが、がんなどの対策も欠かせない。メタボ健診を、自分の健康全般を上手に見つめ直す機会にしてほしい」と、医療ジャーナリストの和田努さんは話している。
 特定健診や特定保健指導は、生活習慣病を減らすために始まった。
 健診や指導を実施するのは、企業の健康保険組合や市町村の国民健康保険など。対象は四十―七十四歳の加入者だ。この年代でメタボに該当するか予備軍と考えられる人は男性の二人に一人、女性の五人に一人にのぼると考えられている。
 特定保健指導の対象者は、腹囲などの健診結果をもとに決められる。腹囲の基準は、男性の場合八十五センチ以上、女性は九十センチ以上。このほかに、血圧や中性脂肪、血糖などの値や喫煙状況などが判断基準となる。該当者は保健師や管理栄養士らによる、食事や運動など生活習慣の改善指導を受ける。指導は面接のほか、電話、電子メールなどを使って行われる。
 会社員は、会社の健康診断で受診できる。一方、妻などの扶養家族や、国保加入の自営業者などは自分から健診会場まで受けに行かなければならない。受診率をどう高めるかが課題だ。
 健保組合などは受診率などが低いと、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)に払う支援金が増額される。このため、各社は積極的に取り組まざるをえない状況だ。
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【図・写真】メタボ対策に健康的なメニューを用意するNECの社員食堂