20080519 日本経済新聞 朝刊
一人ひとりの日常生活に広く影響をおよぼすにもかかわらず、これほど周知がなっていなかった制度も珍しい。四月に始まった新しい高齢者医療制度のことだ。
今回の調査で制度を知らないと答えた人は計二一%。「少しは知っている」が七〇%だが、大半は制度開始前なら「ほとんど知らない」と答えたのではないか。開始後に保険料負担など高齢者の「痛み」をテレビなどが集中して流したので、それを見聞きしたのが実情だろう。
厚生労働省はそれなりに広報活動したと思っているようだ。リーフレットをつくり、テレビやラジオで政府広報も集中して流したという。
だが、それは役所の自己満足だろう。対象が七十五歳以上であることを考えると、たとえば虫眼鏡で見なければ読みにくい細かな字、しかも専門用語を多用していたとすれば、説明書は用をなさない。
制度が出足でつまずいた主因は内容周知の不徹底に尽きる。訪問看護を受けやすくなる、薬の飲み忘れがないように薬局が手助けしてくれるなど、高齢患者向けならではの新しい仕組みがあるのだが、それは脇に追いやられ、保険料の年金からの天引きなど耳障りな情報が流布された。
制度の手直しや大幅な見直しを求める声が多いのは、その影響だろう。また、うば捨て山のようだという批判が効いたのか、「高齢者を独立させて死ぬまで保険料を払う」のが問題だと考える人は六七%に達した。
官僚や国会議員による税金の無駄遣いは許さないという意見も目立った。道路財源問題に焦点があたった時期に重なったためだろう。
日本の高齢化は他国に例をみない速度で進む。おまけに名だたる長寿国だ。高齢者に相応の保険料を求めてゆかないと、現役で働く世代は厳しい負担を強いられる。高齢者の医療費を賄う支援金を払うために、健康保険の保険料率を引き上げた企業もある。多くの企業は今月から、この制度に費やす従業員一人ひとりの負担額を給与明細に記載する準備を進めている。
(編集委員 大林尚)
調査の方法 調査会社ヤフーバリューインサイトを通じ五月九―十日にネット調査。全国の二十歳以上の男女千人が回答。