20080502 日本経済新聞 朝刊

 「ねじれ国会」による政策決定の混迷が深まっている。主要な改革を巡っては政党と所属議員の主張が食い違い、問題をより複雑にしている。将来の政界再編とも絡む対立軸を点検した。
 与野党のねじれが如実に表れているのが年金制度改革だ。政府・与党の基本方針は財源を保険料で賄う現行の社会保険方式の維持だが、自民党では民主党が主張する全額税方式に賛同者が広がっている。
 「消費税ですべてを賄うことにはならない。基本的な保障部分は税でもいいが、それを超える部分は保険制度でやるとなっており、将来も妥当性が高い」。二月の衆院予算委員会。福田康夫首相は現行の社会保険方式の維持が基本と表明した。
 首相の言葉は政府・与党の基本方針に沿ったもの。自民党内では谷垣禎一政調会長や与謝野馨前官房長官のほか、丹羽雄哉前総務会長ら厚労族議員のほとんどもこの立場だ。社会保障費は年金だけでなく、医療や介護も今後は歳出が増え続けるため、厚労族は「貴重な消費税を年金だけに回せない」(幹部)と考える。
 ところが首相は民主党の税方式にも「十分な議論が必要」と理解を示す。ねじれ国会を踏まえ、秋波を送った格好だ。政府に社会保障国民会議を設置し、民主党に参加を呼びかけたのも、税方式を呼び水に与野党協議を実現させる狙いがあった。だが、対決路線に傾く民主党には応じる気配が見えない。
 「野党を巻き込んでほしい」。首相周辺からこう頼まれたのは、三月末に発足した全額税方式を推進する自民党内の議員連盟「年金制度を抜本的に考える会」(会長・野田毅元自治相)のメンバーだ。議連は中川秀直元幹事長や山崎拓氏ら百二十人の大所帯。議連幹部は「民主党にも参加を働きかけたい」と語り、党対党の国民会議とは別に議員同士の連携を探る。
 議連の政策である「税方式、消費税率上げ」はかつての民主党と同じ。岡田克也、前原誠司の両副代表が代表時代に掲げていた政策だ。岡田氏は年金財源として「消費税率の三%上げ」を打ち出し、前原氏も増税に言及していた。前原氏は最近も「考え方は全く変わっていない」と明言。小沢一郎代表ら現在の民主党の「消費税率維持」の方針とは距離がある。
 逆に今の民主党の主張に近いのが自民党の中川元幹事長。特別会計の余剰金「霞が関埋蔵金」を発掘し、消費税率引き上げに反対の税方式論者、となれば、方向性は似ている。自民党厚労族は「万一、民主党案『丸のみ』の局面があれば中川氏が動くのでは」と警戒する。
「岡田なら…」
 「岡田、前原なら組める」。自民党の税方式推進議連のメンバーからはこんな声もあがる。今は対決姿勢を崩さない民主党だが、政局になれば「ここが結節点になる」との見立てだ。ポスト福田に名乗りを上げる麻生太郎前幹事長も「全額税方式、消費税一〇%」を公言。「与野党の垣根を越えて年金を監視しよう」とも呼びかけている。与野党協議や政界再編の震源地にみな狙いを定めている。
【図・写真】社保事務所には長蛇の列(先月9日、さいたま市)