放射線治療


ネットで調べ、照射えらぶ


 がん治療の三つの柱は、手術、抗がん剤、そして放射線治療だ。米国では広く実施されているが、日本では手術や抗がん剤に比べてなじみが薄かった。しかし、手術も放射線も「治療成績は同等」というがんもある。今後、放射線治療を選ぶ患者は急増すると予想されている。よりよい放射線治療を受けるために、日本で今、どんな課題があるのだろうか。(浅井文和、武田耕太、田村健二)


 「あのまま手術を受けていたら、きっと後悔していたと思います」

 東京都内の主婦(39)は昨年秋、大学病院の婦人科で子宮頸がんと診断された。進行度は「1b」。子宮全体と周辺を摘出する手術を告げられ、その場で手術日も決まった。

 しかし、帰宅後、インターネットで調べて驚いた。

 「手術後は排尿障害などの副作用が出て、リハビリが必要になる場合もある」とあったからだ。医師から、こんな説明はなかった。

 本当に手術でいいの?疑問がわいた。

 東京大学病院(東京都文京区)の放射線科でセカンドオピニオンを受けた。子宮や卵巣を摘出せずに済み、日常生活を送りながら治療を続けられると教えられた。

 11月から、治療を始めた。最初の2週間入院した以外は通院で治療した。体外からの照射と、子宮と膣に挿入した細い金属管を通して照射する膣内照射に抗がん剤を組み合わせ、今年1月初め、がんが消えたことが確認された。

 中学生と小学生の子供がいた。治療の多くは午前中で終わり、買い物をして家に帰れた。食事の準備や掃除など、治療前と変わらない毎日を過ごせた。

 「納得して治療法を選べてよかった。患者には、なるべくたくさんの選択肢を示してほしい」

 埼玉県内の主婦(36)も進行度「1b」で、病院で手術を勧められたが、書籍やネットなどで自分で調べて放射線治療を選んだ。「そこへ行き着くまでこんなにエネルギーがいるとは・・・・・・・。治療法を公平に選べるシステムになっていない」と話した。



治療効果、「手術と同等」


 子宮頸がんの進行度が1b~2の場合、日本婦人科腫瘍学会の治療ガイドラインは手術を推奨している。

 一方、欧米は、1b~2aなら、放射線治療と手術の成績で有意差がないとし、米国のガイドラインも手術と放射線療法を併記している。2bは手術ではなく、放射線療法と化学療法の併用を標準としている。

 なぜ違いが出るのか。

 大阪大学病院(大阪府吹田市)の井上武弘教授(放射線治療額)は、手術を主体にがん治療をやってきた日本医療の経緯を理由に挙げた。そして「婦人科受診後に、手術が不可能と判断された場合、放射線科を訪れる人が多い」と話した。

 ガイドラインの作成委員長だった藤田保健衛生大学病院(愛知県豊明市)の宇田川康博教授(産婦人科)は、放射線治療による後遺症の実態も含め、「日本人でのきちんとしたデータがない」ことを課題にあげる。欧米と線量など治療法が異なる部分もあり、単純比較できないとしている。

 静岡がんセンター(静岡県長泉町)では、子宮頸がん患者(進行度1b~2)に原則として、対等な治療法として、婦人科医が手術、放射線科医が放射線について説明し、治療法を選んでもらっている。

 02年9月~06年4月に受診した患者77人のデータを分析したところ、7割近くが「手術が確実」「早くすっきりしたい」などの理由で手術、残り3割が「切らずに治療を受けたい」「通院が可能」などで放射線を選んだ。短絡的な経過観察では、今のところ、治療効果に差はないという。センターは、今後もデータを集めていく考えだ。

 宇田川さんも静岡がんセンターの調査に注目している。「ガイドラインは完全なものではなく、現時点のコンセンサスに過ぎない。今後、報告される内容によって標準治療が変わる可能性はある」と話した。



専門医、米の10分の1

 


 05年 16万2千人

 10年 25万人

 15年 36万人

 放射線治療を受ける全国の新規がん患者数の年別実績と予測だ。厚生労働省がん研究所成金研究班がまとめた。

 10年間で倍増する理由は、患者数の増加だけでなく、放射線治療を受ける人の割合が増えるからだ。研究班メンバーの手島昭樹・大阪大医学系研究科教授によると、米国では新規がん患者の60~70%が放射線治療を受けるものの、日本はわずか25%。ただ、今後、高齢化が急速に進む日本で、「手術は難しいが、放射線治療なら」という患者も多くなりそうだ。

 治療技術も格段に進歩している。健康な組織になるべく放射線を当てず、がんだけを正確にとらえる技術が次々に開発されている。

 進行度で治療法は変わるが、喉頭・咽頭など頭頸部のがん、食道がん、子宮頸がん、前立腺がんなどでは放射線治療や、放射線と抗がん剤を組み合わせた治療が世界的にも標準的になってきた。

 技術の進歩の一方で、日本で放射線治療が広まらない理由に「そもそも放射線科医がいない」という事情もある。日本放射線腫瘍学会認定の専門医は約500人。米国は約5千人いる。医師だけでなく、治療に貢献する医学物理士も足りない。日本は382人。米国は約5千人。

 このため、「放射線治療が妥当と思われる患者がいても、受け入れられるマンパワーはない」「施設間で患者の差があり、実力の差もある」との指摘がある。大阪大学病院の井上教授は、設備も人材も一定の施設に集約し、「医療者側の技術を上げていくことが必要だ」と話した。

 対策として、文部科学省はがん専門家を育てる「がんプロフェッショナル養成プラン」を始めた。今年度18ヵ所が拠点に選ばれ、大阪大や京都大などで医学物理士を養成する。平岡真寛・京都大教授(放射線腫瘍学)は「がん対策基本法で関係者の意識が変わった。放射線治療は対策のカギになる。医学物理士養成が同省の計画に入った意義は大きい」と語った。

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