20080418 日経産業新聞

 心臓や脳をわずか〇・三五秒のスキャンで撮影し、臓器の形状や血流の様子を立体的に映し出す東芝メディカルシステムズのコンピューター断層撮影装置(CT)「アクイリオンワン」。心臓のような動く臓器でも画像にズレが生じない。四月、この最先端機器を国内でもいち早く導入したのが岐阜県美濃加茂市にある木沢記念病院だ。
 「患者はカテーテル検査が不要となり、痛みや不安を感じなくてすむ。検査時間も格段に短くなり、すぐに医師が治療に取りかかれる」。山田実紘院長は四億円を投じた狙いをこう説明する。
 木沢記念病院はこれまでも最新機器を次々とそろえてきた。一回二十―三十分ほどで全身を検査し、一センチ以下の腫瘍(しゅよう)でも発見できる陽電子放射断層撮影装置(PET)を二〇〇〇年に岐阜県で初めて導入。がん細胞を最適な角度や線量で照射できる米国製の放射線治療装置「トモセラピー」も〇五年に全国で二番目に入れた。
 「患者さんの身になって考えた結果」と山田院長。多額の投資をいとわず治療体制の整備に力を入れる背景には、脳神経外科医の院長自身が患者として経験した二十五年前の出来事がある。
 ある日、病理検査で余命四カ月の肝臓がんと診断された。ところが手術の一年後も元気に働いていた。腫瘍は良性だったことも偶然知る。「なぜすぐに教えてくれなかったのか」と執刀医に問いただすと、「外来に来たら話そうと思っていた」と答えが返ってきた。
 がくぜんとした――。山田院長は振り返る。検査や手術が患者にとってどれだけ不安か身をもって知った。医師が患者の目線に立つことの大切さも痛感した。
 患者本位の考え方は医療だけでなく、治療後のリハビリや介護ケアから予防目的の健康管理まで、患者ニーズに切れ目なく対応する体制づくりにもつながっていった。
 これもきっかけは実体験。執刀した脳卒中患者の身体機能がリハビリである程度回復し、「そろそろ家に帰れますよ」と話しかけると、患者は涙をポロポロ流し始めた。「うれし涙だろう」。その時はそう思った。
 しかし、患者は自分が家に帰れば家族に迷惑をかけるのがつらくて泣いたことを後で知る。「ショックだった」。日本の高齢者福祉のモデルをつくろうと決意した。
 一九八七年、山田院長は自ら理事長として社会福祉法人慈恵会を設立。八八年に美濃加茂市で特別養護老人ホームを開いた。診療所もつくり渡り廊下で結んだところ、「医療と福祉は別もの」と役所に廊下の取り壊しを命じられ、悔しい思いも味わっている。
 だが、志は捨てなかった。ケアハウスなどを設けて介護保険事業も積極的に取り組む。山田院長は「これまで全力疾走してきた。少しスピードを落とすかな」と笑いつつ「今後も地域住民の様々なニーズに対応していきたい」と力を込めた。
(岐阜支局長 鈴木由美子)
【図・写真】今月に2台目を導入した放射線治療装置「トモセラピー」
【図・写真】山田実紘院長

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