20080330 日本経済新聞 朝刊

 夫の定年を目前に控え、妻は今後のお金のやりくりに不安を覚えました。第二の人生を十分に楽しむためのお金はどうやって確保すればよいのでしょう。老後のマネープランについて、ファイナンシャルプランナー(FP)に話を聞くことにしました。
 妻 退職金や年金は入ってくるけれど、それだけで足りるのか不安だわ。
 FP 不安になるのは、今後発生する資金需要を把握できていないことに原因があります。定年退職後にどういう生活を送りたいのか、まずは夫婦二人のライフプランを作ることが、資産運用を始める第一歩です(表A参照)。
 ライフプランは詳細なものである必要はありません。「退職後は毎年海外旅行に行く」「自宅を売却して田舎に引っ越す」という程度で大丈夫です。計画さえ決まれば、実行するのに必要な金額はある程度固まってきます。
 夫 確かに、二人で楽しみたいと思ってることはいっぱいありますよ。
 妻 二人でなく、老後はあなた一人になるかもよ。
 夫 え! いろいろ反省しますから……。
 妻 冗談だってば。
 FP 仲がいいのか悪いのかわかりませんね(笑)。とにかくその額に、毎月発生する生活費や、住宅のリフォーム代金、子供の結婚資金など一時的に発生する費用を足せば、必要な金額がある程度把握できます。生活費の見積もり方が意外と難しいのですが、あまり切り詰めて考える必要はありません。現在の生活費を参考に、余裕を持って金額を設定しましょう。
 一方、収入については現時点で保有する現預金や株式など有価証券、土地建物、さらには、退職時に受け取る退職金や年金などを加えて算出します。こうやってはじき出した収入と支出を比較し、不足分を手元資金の取り崩しでまかなうことになります。
 妻 確かにどう考えても出費の方が多そう……。
 FP 標準的な例で、具体的に考えてみましょう。生命保険文化センターによると、ゆとりある老後を送るために月三十八万三千円の生活費が必要です(〇七年調査)。一方厚生労働省が想定するモデル世帯の年金は夫婦二人で計二十三万円強。毎月約十五万円ずつ足りない計算です。
 仮に退職金で定年時に三千万円程度あったとします。これを現在の利率〇・二%の普通金利だけで運用していると、毎月十五万円の取り崩しが続いた場合、二十年ももたずに底をついてしまいます。
 妻 私、まだ生きていそうだわ……。
 FP だからこそ老後も運用を続け、資金の減り具合を抑えることが必要なのです。
 夫 わかりました。目標利回りは高ければ高いほどいいのですね?
 FP グラフBのように、利回りが高ければ高いほど効果が大きいのは一目瞭然(りょうぜん)です。ただ利回りを高くするためには、その分、値動きの大きな資産に投資してリスクを取る必要があります。三十歳や四十歳代なら多少、リスクを取って損失を出しても、その後の運用で取り戻すことは可能ですが、年配者になると難しいものです。何より精神面でのショックが大きく響きます。
 マネックス・ユニバーシティ社長の内藤忍さんは「六十歳以上の人は最大、資産が一〇%減少するリスクまでしか取るべきでなく、そのためには目標利回りを三%程度に抑えるべき」と話しています。
 FPの神戸孝さんも「二―四%の運用利回りが確保できれば、老後の資金は安心というケースが多いはず」と指摘します。実際、さきほどの三千万円を年に三%の利回りで運用すれば、グラフBでもわかるように、十五万円ずつ取り崩しても底をつく時期が伸びます。
 重要なのは「分散投資することで成績の振れを極力抑えること」(FPの土井健司さん)です。グラフCは目標利回り別のポートフォリオ(資産配分)の一例です。いずれも、リスクが低い現預金のほか、国内外の債券、株式、不動産投資信託(REIT)などに分散投資します。
 妻 具体的には?
 FP 例えば、国内株で運用する場合「中長期的な利益成長が期待でき、相対的に値動きの少ない銘柄を探し出す」(T&Cファイナンシャルリサーチの本吉亮さん)のが理想的です。それが難しいなら「投資信託で代用するのがよい」(土井さん)でしょう。手数料が発生しますが、その分は手間賃として割り切るしかありません。同様に、外国株式、債券などについても投信を活用するのが最も簡単です。
 投信のもう一つの利点として、資産配分の調整(リバランス)をしてくれることが挙げられます。リバランスは値上がりした資産を売却すると同時に値下がりしたものを買い増し、組み入れ比率を当初の計画通りに戻すこと。「年一回毎年決めた時期に機械的に行うのが基本」(神戸さん)です。結果的に割安になった投資商品を多く持つことになることから、長期的に一ポイント程度運用利回りを高める効果が期待できるようです。
 妻 お給料を振り込んでいる銀行の人からよく投信を薦められるわ。
 FP 金融機関からは、比較的コストが高い投信を薦められることもあります。長期運用の上で特に重要なのが運用期間中ずっとかかってくる信託報酬(運用手数料)です。国内外の株式や債券に幅広く分散するバランス型投信なら一本で分散投資できて便利なのですが、その分、信託報酬が年に二%前後かかるものもあります。
 ただ最近は、信託報酬が一%を大きく下回る低コストのバランス型投信なども販売されています。営業マンに薦められたものを安易に買うのではなく、自分で様々な投信の組み入れ内容を確認し、コストが妥当かどうかを検討した上で、最終的に判断しましょう。自分で納得してから購入することが重要です。(大角浩豊)
=この項おわり


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