20080323 日本経済新聞 朝刊




 入院や手術など医療の公定価格である診療報酬が四月から見直される。危険度の高い妊娠・出産や入院・手術の費用の一部などが値上がりする。一方で生活習慣病の計画的な治療費など値下がりするものもある。見直しは現役世代の患者にどう影響するのだろうか。



 潮田実さん(仮名、55歳)は十年ほど前から高血圧の治療を続けている。東京都内の診療所に月一回通い「食塩を控える」など日常生活の注意事項をまとめた計画書をもらう。窓口で支払う金額は医療費の三割で三千二百二十円。検査料も含まれ、毎回同額だ。四月からは七百五十円安くなる(表A(1))。診療報酬見直しで、支払額の約九割を占める「生活習慣病管理料」が下がるためだ。



平均0.82%の値下げ



 生活習慣病は幅広い年齢層でリスクが高く、関心が高い病気の一つ。食事や運動、飲酒の習慣など生活全般を計画的に見直す治療費が生活習慣病管理料だ。対象は高血圧・糖尿病・高脂血症(脂質異常症)。薬を院外の薬局で買う場合、現在は患者負担と保険給付が合計一万円前後だが、四月から二千五百円下がる。



 ただこれまでは同管理料を使わない場合も多かった。東京都大田区にあるナグモ医院の南雲晃彦院長は「一回の治療で患者が支払うお金が現状は三千円程度。高額で利用しづらい」として「特定疾患療養管理料」で治療している。「検査などは別料金だが、基本的な治療費が安いのでよく使われる」(日本医師会の鈴木満常任理事)。もし潮田さんがこちらを使う場合、自己負担額は検査がなければ四月以降も変わらず、検査を受けると少し減る。



 どちらを支払っているかは「初・再診料」などの項目別に点数を書く形式の領収書でわかる。点数は診療報酬を表し一点は十円相当。典型的な書式では「医学管理等」の項目を見る。四月以降、一般に六百五十点以上なら生活習慣病管理料。保険点数を合計して十倍し、自己負担割合をかけると支払額になる。



 今回の診療報酬見直しは〇・八二%の値下げ。生活習慣病を含め、現役世代に関連が深い変更がいくつかある。



 まず妊娠・出産関連。一般に早産や高齢出産、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)など母子の健康が危険な場合の治療費が高くなる。診療報酬を手厚くし、産科医が治療に取り組みやすくする。妊娠中の入院費に、保険給付と患者負担を合わせて一日一万円を新たに上乗せする。出産前後の入院費も上乗せ分が倍増、一日二万円になる。例えば妊娠中毒症で入院、帝王切開で出産した場合は、医療費が十万円近く増える(表A(2))。



 ただ「自己負担額は一カ月の自己負担額の上限を定める高額療養費制度で抑えられる」(聖路加国際病院)ので、九百五十円増にとどまる。



 小児科でも夜間・休日の診療費の一部などが引き上げられる。例えば、気管支ぜんそくで夜間、病院の救急窓口に駆け込んだ二歳の女児は、保険給付を含む医療費が六百円上がる(表A(3))。患者の負担額は、子供の医療費の助成制度がある自治体では四月以降も変わらないことが多い。



 入院・手術でも変化がある。七十二の手術が平均三割値上げされ、一部病院では入院費も上がる。例えば脱腸(そけいヘルニア)の手術で四日間入院すると、自己負担が二千五百五十円増す(表A(4))。それでも日本病院会副会長の池沢康郎氏は「手術料はまだ安すぎる。手術に使う材料費や人件費をまかないきれない」と指摘する。



 このほか診療時間に関する価格見直しもある。まず平日の午後六時以降や午前八時前に開業する診療所は、早朝・夜間の診察に五百円を上乗せできるようになる。自己負担が三割だと、上乗せ分の負担増は百五十円になる計算だ。



 また現在、一定規模以下の病院や診療所では、再診時の診療費に五百二十円(現役世代)を加算している。だが四月からは診察に五分程度かけることが条件になる。患者の話をよく聞いて丁寧に説明すれば五分程度かかるというのが厚生労働省の見方だ。ただ患者側から「診療時間が延びて待ち時間がさらに長くなりそう」(東京都品川区の会社員、40)との声も出ている。



規模で異なる料金



 河北総合病院の河北博文理事長は「今回の見直しでは解消されない問題が多い」と指摘する。例えば同じ治療でも医療機関の規模によって料金が違う。四月以降もこの状態は続き、糖尿病で検査を受ける場合、自己負担は診療所の方が大きな病院より約七百円高くなる(表B)。専門的な設備を持つ病院の診療報酬が上がったが診療所よりまだ安く、逆転現象が残るためだ。



 安いからと軽症でも病院に行くのは薦められない。専門的な治療が必要な人の待ち時間が長くなり、全体では非効率になってしまうからだ。



 窓口で払う医療費の根拠は、患者にはわかりにくい。領収書には項目ごとに診療報酬の合計点数が記載されるので、検査や処置の単価はわからない。今回の見直しでは、医療費の内訳について情報提供を充実することも盛り込まれた。大規模な病院では患者が求めれば明細書を発行するよう義務付けられる。



 地域の診療所では自主的な試みもある。ナグモ医院では診察室で診療費の“見積もり”を出す。「費用の目安がわかれば安心して治療を受けられる。緊急でない検査を次回に回すなどの相談もしやすい」と南雲院長は説明する。支払う金額の内訳に関心を持つことが、賢い患者への第一歩かもしれない。(大賀智子)

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