人を狂わせる力があるとか
日没間近 満潮の海に散歩に出かけた私は
釣り人で賑わう堤防を歩いた
岩木山とアスパムの間にぐんぐん沈む夕陽を
北の風が吹く中 テトラポットに立って眺めたのだった
360度見渡しても 山と海と空と沈む太陽だけ
大きな空 水平線 波しぶき 海の匂い 夕景
日没後 振り返ると満月
太陽が沈み月が昇る 宇宙のサイクル
まるで私を中心に宇宙がぐるんと動いたような錯覚
密やかに淡く空に浮かぶ満月 日没直後の明るい空に静かに
1分ごとに空の色が変わっていき
やがて月が青白く輝き始めると その光は波に映り
満潮の海が河口を逆流していく
私は歩きながら聴いていた音楽のボリュームを上げた
満月の光を受けた私は 突然踊りだしたい衝動に襲われ
少しだけ身体を動かしてみた 血が逆流した
頭を振ってみた 世界がぐるんと動いた
遠く輝く満月
音楽に合わせてジャンプしてみた 身体がふわりと浮いた
頭を振って足を踏み鳴らしたら 嬉しくて笑いがこみ上げてきた
振り返った私は月を背にして走りだした
走る ジャンプ 走る 振り返ると満月
海辺の公園にはもう人影はなく
気がふれた私は芝生を駆け抜け 公園を横切り
走った 全速力で走った
身体の中にある球に引っ張られてるみたいに足が勝手に動いた
背中に感じる月光 夕暮れのニオイ 冷たい風
走る 止められない 走り続ける
ついに家まで走ってきてしまった
はずむ息 でも苦しくはない 肺に新鮮な空気が流れ込む
頭の中が澄んでいる
どうして踊りだしたくなったのか
なぜ走り続けることができたのか説明がつかない
ついさっき窓から見た満月は天頂付近で銀色に輝いていた
空からのサーチライト
見つかったら大変とばかりに急いで窓を閉めた
やはり満月には人を狂わせる力があるのだ