それは近所の庭園の緑が美しかった夏の始め。
毎週木曜日の夕方、息子の習い事が終わるのを待ちながら近くの商業施設内のカフェでパソコンを開く。それがその頃のルーティンの一つで、目の前の情報だけに集中できるし気分転換になるので結構気に入っていた。
その日は事務所に設置されているwebカメラの接続状態を確認をしようと前から決めていた。設置から何年も経っているため、保守サービス終了の通知が来ていたから気になっていたのだ。
パイを食べ、コーヒーを飲み、書類に目を通しながら画像が上がるのを待っていると、しばらくして事務所内の様子が映し出された。
丁度、三人いたうちの一人A君が退社するところだった。とっくに定時は過ぎている。持病がありつつ毎日残業している彼の健康を案じながらメールをチェック、パイを齧り、コーヒーを含み数分後に再び画面を見ると、カメラから一番近い席に女が背を向けて座っていた。奥には男の姿も見えた。
さっき見た、事務所に残った二人だ。
女は向かい合って男の膝に跨っていたが立ち上がり、捲り上げていたロングスカートをさっさと脱いだ。続いてブラウスを脱ぎ、ラベンダー色の下着もポイポイと脱ぎ捨て、慣れた様子で全裸になった。
ズボンの上から股間をいじりながらその様子を(なぜか)チラチラと見る男…。
すっかり日が延びた初夏、退社時刻をはるかに過ぎても事務所内はまだぼんやりと明るく、映像はまだカラーのままだ。
ふと、息子の習い事が終わりの時刻に近づいていることに気づき、テーブルを片付けてエスカレーターで階下へ。
大きめのノートパソコン開いて歩きながら映像を注視していると、今度は椅子に座りながらも腰をかがめた女の後ろ頭が男の股間で上下している。一瞬、ニヤついた男の顔が見え、男の手が女の長い髪を鷲掴みにする。
女の頭が激しく動く。
私はビルから公園へと伸びる連絡通路のベンチにパソコンを置き、スマホのカメラを立ち上げた。
やがて女は立ち上がり、真ん中に棒が立っているような男の膝に向き合って跨り体を揺すりながら腰を下ろした。そしてナマのピストン運動が始まった。
女の上半身が上下するのに同調して、男の股がパカパカと開いたり閉じたりする。女は見ることのないその奇妙な動きに、なぜか私の頭の中には「珍獣の交尾」というワードが浮かんできた。わずか数分で終わってしまうためその瞬間を捉えることが非常に難しいという珍獣の交尾を初めて捉えた映像だ〜!….。
と、カメラが暗視モードに切り替わり、映像が一瞬途切れた後モノクロに。カメラの微妙な動作を感じ取ったのか、こちらを向いて座る男の目がピカリと光った。
珍獣感炸裂…!!
解散時刻に少し遅れたが何事も無かったようにパソコンを背負い、私は息子を迎えに行った。
事務所の天井の隅、出入り口に向けて設置されたwebカメラ。
その昔、防犯兼勤務状況確認のためにと社長が設置させたものだ。
この出来事から4ヶ月後、日々「事務所内での行為」を監視し続けたカメラは徐々に画像が荒いモザイクになった末に接続不能に。
当初の目的のためには大して役に立ってもいなかったが、ここへきてそんなモノを映すとは、カメラも良い仕事したと思っているはず。立派に職務を全うしてくれた。
アイツは社長のではなく、私の頼れる相棒だった。