ベイゴマの世界ー11 | JOKER.松永暢史のブログ

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しかし、不思議なことに、この八幡の「賭場」にはこれ一回しか足を運ばなかった。いや正確に言うと二回なのだが、二回目はハシがどこかへ消えていないときだった。この時はあまり勝つことはできなかった。それにハシがいないとムードが悪く、皆粗暴な感じになって楽しくなくてすぐに家に帰った。対して、勝つことはできなくても、ゲルのところのベイゴマはメチャクチャ面白かった。この辺のニュワンスは知る人ぞ知る。実はギャンブルは負けているうちが楽しいのである。

ゲルのところでは、ヘタクソでバカにされるが、何ともゲルたちが戦っているのを見ているだけでも楽しかった。そこでは信じられないようなレベルの「戦い」が行われていた。その合間をぬって、ヨージやカッパやコージなどがヨーパンやノリなどのおこぼれを狙い、それなりの戦果を挙げるようになった頃、うわさを聞いてよそから他流試合の連中が混じって構成人数が膨らんだ。その中に「マツ」「マッちゃん」ことイケ面のマツイケンイチ君がいた。「マツ」は小学1〜3年のクラスで出席番号が一つ前の子で、この子が「マツ」、「マッちゃん」と呼ばれたので、筆者の最初のあだ名の「マツ」は使いにくかった。また、「暢」と言う字はなんと読むのか分かりにくいのでこれも採用されない。ところがある時突然にとんでもないあだ名がつけられて、これは嫌がってもなぜかあっという間に全員に広がり、中学に入ると女子にまでそのあだ名で呼ばれるようになってしまったのである。

ある朝、朝礼前に校庭で遊んでいると、ハシが、つくづく筆者の顔を覗き込んで、突然、「オマエは今日からカッパだな」と言ったのである。

自分は寝相が悪い上に、夜寝る前の入浴後、よく髪が乾かないうちに寝てしまうので、明くる朝起きると髪の毛がバラバラになっているのであるが、学校に出かけるので急ぐためなのか、なぜか家人も注意しないので気にせずそのままのアタマで登校していた。当時鏡を見るのは歯が痛い時ぐらいのことだった。ここまでは子どもによくある話かもしれないが、筆者のアタマは、と言っても中身ではなく外面は、頭頂から耳の上あたりのところからなぜかやや絶壁気味に下へ向うので、その寝癖は、頭の両側の髪の毛が横に屋根の庇のようにおっ立っているカタチになる。でも恥ずかしいという感覚はなかった。ハシはそこを突いて来た。

「カッパなんていやだよ」

「いやカッパだ。どう見てもオマエはカッパだ。カッパとしか言いようがない。みんな、今日からこいつをカッパと呼ぼうぜ」

するとどういうわけか、皆ハシがコワいのか、「カッパ」「カッパ」と喜んで言うようになり、場合によっては「バカッパ」と呼ばれるようになってしまったのである。

ヨージがすっとぼけて言う。

「バカがカッパになるとォー?」

するとみんなが、

「バカッパー!」

「カッパがバカになるとォー?」

「バカッパー!」(大爆笑)

下らないが、筆者が何か失敗やオカしなことをすると、決まってヨージが腰を振ってこれをやって、みんなが大笑いした。ウけたヨージは、足をバタバタさせながら、「オシッコモらしそう!」を連発して苦しそうに笑いこけた。

可愛い小学1年生たちもこれを見て、道で筆者のことを遠くから「あっ、バカッパー」と呼んで逃げるのには本当にアタマに来たが、どうしようもなかった。

ベイゴマの時には、「アックー」するとすぐ自駒を採ろうとするので、ゲルから、

「ハヤトリガッパ0、5秒」と呼ばれたりした。

中学校に上がると、ナンと、教師までもがカッパと呼んだ。

名付け親のハシに言わせれば、「オマエはカッパとしか言いようがない」ということだったが、ハシだけではなく誰もが自分を「カッパ」と認識したことになる。これはしゃべる時に口が尖るせいもあるかもしれなかった。

ともあれ、「カッパ」と呼ばれて返事をするのには相当抵抗があった。

「おいカッパ」

「・・・・・」

「無視すんじゃねーよ、カッパのくせに」

「カッパじゃあない」

「じゃあ何だ?」

「人間だ」

「バッカヤロー、人間なんてあだ名があるか」

「でもカッパじゃない」

「いやオマエはカッパだ。リッパなカッパだ。誰が見たってオマエはカッパとしか言いようがない。もうみんなオマエをカッパだと思っている」

「いやだいやだいやだ。僕はカッパじゃない。お願いだからやめてくれ!」

しかし、たとえ自分が返事をしなくても、やがて陰では誰もが「カッパ」と呼ぶようになってしまった。

そこには、どこか間違いなく他と違ったオカしな人間だけれどもそう呼ぶことで受け入れようという集団精神作用もあったと思う。

それほどこのあだ名は筆者の人間存在に相応しいあだ名だったと思われる。思うに、こうして「Joker」を名乗って文章を書くのは、この「カッパ」でなくて、何かそのものになろうとする「あがき」であると言えないこともないとも思えてくる。

さて話がだいぶ逸れた。

カッパではなく「マツ」ことマツイ君が持って来たのはみんながまだ見たことがないベイゴマだった。

それは後に「最強」と呼ばれた「とよだ」だった。