スリランカのテロについて | JOKER.松永暢史のブログ

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バグダディは生きていた。何度も、ロシアやアメリカなどの爆撃で殺害されたとされたが、スリランカのテロ後、その映像が公開された。自ら「カリフ」として、IS(イスラム国)を主導し、敵味方数多くの命を奪った男が、最後の拠点バグースを失った後、自ら生存を示し、スリランカのテロがISによる報復だと公表し、「ジハードは永遠だ。それは勝利を得るためではない。神がジハードを命じたからである。」と宣言して、さらなるテロを推奨した。

シリア、イラク北部でISが起ったのは、2003年のイラク戦争でサダム・フセインが殺害され、その政権が解体されると、彼の支配下にあったバース党の残党が、イラク北西部を拠点に活動するようになったからである。フセインは、1990年のクウェートへの侵攻による湾岸戦争でもクウェートの石油利権を狙った動きを見せて西側と戦っていた。

地図を開ければ一目で分かる。ペルシア湾は油田だらけである。そこには、イラクの他に、最大産出国サウディアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、アラブ首長国連合、オマーンがひしめき合い、対岸のイランでも多くの油田を抱えている。しかも、チグリス川上流へ遡る地点にも、キルクーク、モスルなどの油田地帯が並び、さらにはトルコ領内、黒海沿岸まで石油の埋蔵が確認されている。しかもカスピ海アゼルバイジャンのバクーでも石油が出る。ということは、石油は、カスピ海、黒海の間の地域からイラク内チグリス川沿い、そしてペルシア湾岸に幅広い帯のように埋蔵されていることが想像される。問題は海の近く以外は深く掘るのに手間がかかることだ。バクー油田のあるカスピ海の海面海抜はマイナス28mである。

ところで、世界の石油埋蔵量が多い国はどこか。それは2位からサウディアラビア、カナダ、イラン、イラク、クウェート(以上埋蔵量1000億バレル以上)、アラブ首長国連合(970億)、ロシア(800億)、リビア(480億)、ナイジュリア(380億)で、13位のアメリカは(200億)、中国は(170億)となっている。しかし、実は現在最大の産油国はアメリカである。これは「シェール革命」(2013頃?)で、石油を深層から掘り出す技術が開発されたからである。2010年にはメキシコ湾で大事故も起こしているが、いまやアメリカは石油輸出国でもありさえする。そして埋蔵量世界1位と言われるのは反米的なチャベス政権以降混乱が続いているベネズエラである。

シェール革命の技術があれば、埋蔵さえあれば世界のどの地域でも原油を掘り出すことができる。ということは、埋蔵国はこの技術があればいくらでも原油を汲み上げることができることになる。そしてそれには石油が出る地域を押さえ、そこを安定させることが求められる。

アメリカは、アメリカ石油資本の言うことを聞かない国を攻撃してきた。湾岸戦争やイラク戦争は正にそれだった。現在のイランやベネズエラへの経済制裁もそれである。ナイジュリアの内戦も怪しい。しかし今アメリカは、シェール革命を経てロシアを抜いて世界最大の産油国となってしまった。トランプ大統領の強気の理由もここにあるのかもしれないが、プーチンさんもどんどん石油を掘っている。結果、石油価格は低迷している。

話が専門分野でもないのに長くなってしまったが、実はテロのあったスリランカでは、2011年に大きなガス油田が発見されている。国際的な石油価格安で開発が遅れていると言うが、油田の場所は、テロがあったコロンボが面するスリランカ西部のマンナール湾の深海である。これとテロを結びつけようとするのは穿ち過ぎだろうか。

バグダディの言うことはメチャメチャである。

「勝利を得ることが目的ではない。神の命じたジハードを永遠に実践し続けることがその目的である」

そんなことがあるはずがない。

それは彼の思い込みである。

日本人なら、「神風」や「神州」という言葉を思い出す。

神はその信奉者ができるだけ平和で幸福に生きることを望むのであって、自らのために多くの人民が死ぬことを望むはずはない。

しかし、石油を手に入れるためには何でもする外国勢力がある。彼らも正しくない。だからこれは神の名の下の「ジハード」というよりも、国際的な石油資本を「敵」と見なした戦いに見える。その巻き添えで、言わば石油の取り合いで、命を落とした無辜の人たちは本当に気の毒としか言いようがない。そして、そんなことを「神」が望むはずもないのは明らかなことであろう。