目標を持って意識的にやること、意図的トレーニングといった言葉が多く見られるようになったが、これは空海の三七二一の修行法とも通じる究極のものであることは言うまでもない。
以前にアテネ五輪女子マラソンで優勝した野口みづき選手の言葉を引用したことがある。
アテネ五輪は、最初長い上り坂が続く、しかも30度と高温下のコンディション。次々と優勝候補の白人女性が遅れる中で、彼女は独走状態で優勝した。
試合後のインタビューで、現地での坂道トレーニングを繰り返したことに触れ、
「大切なことはトレーニングの意味が分かってトレーニングすることです」と語っていた。
まさに意図的トレーニングはスポーツの頂点を極めた人にはどの競技でも共通するものがある。
圧倒的強さで常に世界の最前線に居続け、優勝したアテネ五輪を含めて4期連続出場してこのほど引退したハンマー投げの「鉄人」室伏広治選手は、
「4度出場した五輪から学んだことは?」との質問に、
「それはね、最後まで戦うこと。ギブアップしないこと。結果がすべてと言うけれど、そうではない世界もある。世の中には何を目指したらいいかわからない人がたくさんいる。若者でもそう。目の前のことを誠心誠意、自己分析しながらやる。肉体的にも精神的にも全力を尽くし、真面目に取り組めば必ず次の道が開ける。」
と答えている。言い方は男性的であるが、言っていることに通底することは野口氏と同じだと思われる。
室伏氏はスポーツ科学者で、東京医科歯科大教授でもある。
彼らは「鉄人」だが、自らトレーニングすることがなければ一般人であったはずである。
そしてそのトレーニングのキモは、「意識的にやること」。
スポーツと楽器と学習でどれが最も意識的にやることで効果が出やすいか。
その答えは人によって異なるだろうが、どれか一つでそれを学ぶと他のことにも応用される可能性が高くなる。
大切なのは、たとえそれがわかっても、意識的にすることが充分にできない14歳以前の子どもたちに、意識的にやることの元になる体験をきちんと与えて、それで意識的になる訓練をするようにすることに親が意識的になることであろう。
「結果がすべてと言うけれど、そうではない世界がある」。
これを子どもに伝えるのは並大抵のことではない。
親は小さい頃から子どもが頑張って何かをやり続けることを褒めるしかないのかもしれない。