祖母への感謝 | JOKER.松永暢史のブログ

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以前にも書いたが、たとえば最近電通などの企画会社で優秀、活躍するのは明治立教出身者が多いという。
アイデアが出るユニークな人間の共通点は、子どものときよく遊んだことである。またその後も様々な実体験が多く、スポーツ、文化活動、おまけに失恋も経験しているというような人たちが多い。
小学生時から受験勉強に時間を取られ、しかも外で遊ばずに室内でゲームを行い、受動的な情報吸収訓練を受け続けると、アイデアを出す力や目前のことを直観判断する能力が衰退する。ひいては主体性の欠如に繋がる。
逆に、中学二年まで思いっきり外で遊んで、中学では部活動に打ち込み、それでも中3くらいから、「そろそろヤバい」とか思って集中的に勉強し、県立の二番手校に進んで、ここでまたクラブ活動、学園祭活動に打ち込んで、おまけに運動会では裸踊り活動、しかも恋愛の一つ二つもして、さて高3になると、「そろそろヤバい」と思って猛勉強するも、早稲田慶応の一般枠が難しすぎて現役では届かない。てなわけで、その下の立教明治中央に収まることになるらしいが、彼らは子どもや若者が子どもや若者の時にするべき人生基本となる体験を皆積んでいると言える。つまり、「発射準備完了」と言った人材なのだ。
記述解答を求める慶応と違って、選択肢問題が主体の私立上位大学では、その社会出題があまりに細かくえげつなくて難しいので、配点の多い英語で高得点できないと合格が難しい。そうは言ってもそれは一部の者なので、そうではない現役受験者の「合否」は、国語で失敗しないで日本史や世界史の学習が間に合ったかどうかにかかってくる。ともあれ、選択肢大学のトップ群の一般入試の難易度は、上智、早稲田、立教、明治、中央とほとんど変わらない。明治に落ちて早稲田に受かることもよくある。もちろん全て落ちて最後に記述式の慶応だけに受かる者もいる。
前置きが長くなったが、今年立教大に合格したT君は、小5の時に筆者に音読と作文を習い、家の近くの面倒見の良い中高一貫私立校に進学し、中学では野球部に所属して活躍し、高校ではバンドを組んでリードボーカルとして大活躍。そして高3の春に、自らもう一度V-netのドアを叩いたのである。
初めて小5の時、筆者の前に現れたT君は、真っ黒に陽焼けして目がクリクリした完全なる「アジアの少年」だったが、高3になって現れた彼は、長らく続けたスポーツのせいか、堂々たる体躯を誇る驚くほど尻のドデカい、しかも顔は完全に青年を通り越しておじさんというべき大人の顔になっていた。するべきことは何もかもやり終えた。後は進学のための勉強だけ。
英語の上野先生との二人三脚であるが、初めは甘いと思っていたが、やればやるだけ確実に学力が伸びる。後は時間の問題。入試までに到達するかどうか。
言うまでもなく筆者の生徒は古文は得意。何しろ読んで了解してしまうのであるから、後は言葉の知識と文法だけ。現代文も、そもそもよく読書しているからかやや教養もあり、メキメキ選択肢取りを了解するようになった。遅れているのは英語だったが、これも尻上がりに完成に近づいていった。ボーカリストは、教師の指示通り家でもよく音読したに違いない。
さて、他の現役生が日本史や世界史の特に現代史の学習に手こずる中で、12月初め頃に彼に進度を確かめると、
「バッチリです。アフガンイラク戦争まで終わりました。第二次大戦後東南アジア史現代史とかも終わっています。」
「えっ、どうして?予備校でやったの?」
「学校です。学校でやりました。」
「学校でって、どうやって。」
「僕の学校は高3時に世界史は週に7時間です。」
「7時間!それはどういう人が教えるの?」
「世界史の先生です。素晴らしい人です。話も面白くてとてもためになります。」
何と、とんだところに密かに彼を本当に育んだ教師がいた。彼の国語力はこの世界史の先生の話に耳を傾けることで与えられた教養と日本語了解能力に保障されているとも言える。
いやその先生の素晴らしさを役立てたのは、そこまでの彼の読書であったろう。
今年は、明治、立教、それに同志社と相変わらずエグい、しかも現代史の出題が重なった。これは普通の学校に通う現役君では学習が終わり切らない。
しかし、中高一貫私立校では、最終学年を受験に関係ある教科だけに当てる。
実はこのT君の家は共稼ぎ家庭で、お母様も結構要職にあってずっと時間が自由にならない状態である。
よくあるごとく、代わりに子どもの面倒を見たのがお祖母さまであるが、このお祖母さまは謙虚で穏やかな人柄であるがよくものが見えた方で、お母さんが生活費を稼いでいる間に、ただご飯を食べさせるだけではなく、幼い頃より読み聞かせをし、しかもよく外で遊ばせ、野球に打ち込ませ(これはお父さんがその役)、読書をさせ作文を学ばせる環境設定を行ない、さらにまず筆者のもとへまず自分が音読法を学びに来て、そしてこれを確認すると孫を連れてくるという驚くべき孫思いの人物なのである。
こんな人のお孫さんがT君なのであるが、彼は最初から話が面白かった。しかもその説明しようとすることが微に入り細にわたることなのだが、よく聴いていると話を聞いた甲斐がある極めて面白い話題を取り上げていることが分かる。それは家の近くで缶蹴りをする話なのであるが、その地形の面白さを説明してもらうために、まるで警察の取り調べのように紙に地図を書いて話してもらった。これがあまりにオモロいので、来る度に連載で書き進めたことを覚えている。そこには最近では珍しい、泥だらけで遊ぶガキンチョ集団の世界があった。
長く書いたが、これは最も理想的に行ったと思われる教育環境設定の一つだと思う。
彼は将来有望である。物書きになることもできるだろうが、それ以上の仕事もできる。まずはボーカリストに戻るのであろうが、それ以上に面白いことをするはずである。
今回、お祖母さまから、丁寧な御礼の手紙をいただいたが、そこには彼女に感謝の気持ちを伝えた彼の成長を静かに歓ぶ文面があった。
注意せよ。年上の目の肥えた女性に一発で捕まるなよ。でもそれでもいいか。世代交代が早くなるのだから。