放浪理系女史・ミドリカワです。
旧制中等教育学校の教科書は男女で差があるということを何度か触れましたが、今回は男子学生のための物理教科書を取り上げましょう。
そのまえに、こちらの女子の物理教科書も是非ご覧くださいませ。
昭和9年~10年にかけてのものです。
こちらは実験書つきです。セットでお安く売っていただきました(笑)

女子物理ではツッコミを入れずにはいられない例示写真をかましてくださったのですが、なんということでしょう。物凄く教科書らしい(爆)、今時と変わらない(そりゃそーだ)説明をしているではないですか。例示の文章だって、これみたいにボールを投げたり受けたりでよかったわけで、何も落馬とか選ばなくてもよかったんですよ。
こういうのを女子向けだと省いて何とかして生活に結びつけようとする努力も感じるのですが、やはりこちらのほうが分かりやすいと思います。
で、原子の部分ではかなり当時の最新の話題を取り上げていることも興味深いところ。この時既に日本の物理学は世界レベルに伯仲していたのですよ。

ラザフォード先生がまだご存命という記載!!
これはアツい。原子モデルを語る上で絶対に外せないお一人がリアルタイムで存在し、教科書に出ているとは!
ちなみに、量子力学の萌芽、シュレーディンガー方程式は1926年すなわち昭和11年なので、この教科書の翌年となります。
片隅に記述されているスピンサリスコープもなんだか懐かしいです。
で、Amazonでうっかり買いそうになりました。が、ギリギリのところで我慢しました。
あとは、時代を感じさせるものをもうひとつ出しておきましょうか。

乾電池のイラストです。箔検電器よりもでかい!!
屋井乾電池、とあるので屋井先蔵氏が特許を取られたモデルですな。資金難で日本での乾電池特許第1号とはなれなかったのですが、発明者は彼であり、海外でも彼の乾電池はかなり強い競争力を持っていたようです。
世界に誇れるものとして、敢えて商品名つき(今なら教科書に載せるにもパッケージにある名前は消されます)で出しているのかどうかは分かりませんが、乾電池といえば屋井ということだったのかもしれません。
こうしてざっと全体を眺めてみると、女子物理の生活感重視に対して、
・工業や技術を重視し(工業科目にも通ずるところあり)、より深い原理説明を行う
・現象の観察、実験による考察が豊富
・論述や計算も用いた問題で実践
というところで大きな違いがあるように思います。
原子核物理の黎明期の華々しいメンバーがいらした時代は羨ましいですが、やはり、現代で物理習って良かったなと何となく思うのです。女子物理出されたら、男子のものと比べてあまりにもつまらん!とキレていたかもしれないですから。
いま並べて読んでみてもあんまりじゃないか!と思うのですが、当時の世相や男女の権利や在り方の違いもあるので。また、もしかしたら女子物理の何気ない日常的な側面から別の観点を持って物事を見ていたのかもしれませんし。
教科書はその時代に、次の世代をどう育てていくのかという思いが詰まっているので、時代背景にも想いを寄せながら見ていると本当に面白いのです。