本日のお供は昭和二年発行の『女子理科化學教科書』でございます。


おおっ!流石、化學だけあってきちんと周期表がでているではありませんか❤️
原子模型もまだ現在の形に収まっておらず、酸化物基準の並べ方もこの時代の特徴でありますな。しかし、教科書基準とはいえ、二色刷は珍しいのでは。
赤字の元素は『特に重要とされる元素』とされていますが、今の化学の教科書とはピックアップの仕方は違いますね。
臭素はフィルム写真やパーマの液でも使われます。また、アンチモンは活版印刷の活字合金としての用途がありますが、いずれも現代ではかつての人気はございません。特にこの2つの元素の重要度の変化は時代の流れを感じさせられるものだと個人的には思うのです。
なお、このあとのページには実験をされるキュリー夫人の肖像と説明が出てくるのもあり、彼女が発見したラジウムも当然赤字です。
赤字にする基準は、女子物理と同じく生活に密着している染料や食料品、栄養学に加えて生活用具の材料として使われる頻度も大きな要素だったと推察できます。以前見た『女子物理』と比べて、分子量の計算など、多くはありませんが今の化学基礎にクロスする部分も出て来ています。
あと、91番のプロトアクチニウムが『ウランエキス』なんて名前になっていますね。1918年にはプロトアクチニウムと命名されていますし、大正14年の理科年表に掲載されている周期表でもPaという正式な元素記号及び名称での掲載があります。
ウランエキスなる名称でUxなる元素記号まで付いているのはウラン系列において崩壊順にウランX1やウランX2とよばれる核子の娘核にプロトアクチニウムがあるからということでしょう。崩壊系列に基づいた名称にしているのかと思われます。
リーゼ・マイトナー先生とオットー・ハーン先生が発見した元素がまさかの別名表記とは。
さらに、水素がハロゲンのところで括弧書きで再掲されているのはヒドリドを意識してのことなのかしら………。
教科書の内容としては、現行の『科学と人間生活』の化学分野に近い感じかと思います。食品の科学、材料の科学とほとんど被ります。家庭科とも混同しがち(まあ、同じ内容なので仕方ありませんが)なところです。

図解に関しても全体的に、他の女子用科目の教科書より専門的な部分を絡めている印象です。
当時はキュリー夫人のノーベル賞受賞など女性が化学部分で台頭していることも言及されており、『女子に理科的能力がないといふ説を反証(※証は旧字体)した』とあります。
家庭における実用に重きを置くというコンセプトは揺るぎないものだったようですが、何となく、他の科目より読みやすかったのは冒頭のキュリー夫人の記述にあるような意識を少し感じられたのとやはり数式も多少あったからかもしれません。反応式の捉え方、考え方も丁寧に伝えようとしています(こちらの反応式は矢印ではなく=で反応前と反応後を繋げています。可逆不可逆、熱化学あたりの考察は出てきません)
実験書も併せて作りたいという筆者の思いも見受けられるなど、取り扱いのうえで必要であるからと製造手順やその原理を伝えようとするのはコンセプトとして今にも通ずるものがあるかと思います。
やっぱり、多少の数的説明や原理の詳細も必要だよねと感じずにはいられないのでした。