先日、脚本家の橋本忍さんが亡くなった。
御年100歳。長さが問題ではないけれど、与えられた時間が尽きた寿命なのだろう。
橋本氏が脚本家として加わった映画作品では「八甲田山」や「八つ墓村」(野村芳太郎監督、金田一耕助はも~う、ナイスな渥美清が演じている)も十分面白いのですが、何と言っても「七人の侍」と「砂の器」の2本が別格です。
この2本の映画の機微がわかる=日本人に生まれてよかった~
と思える作品でもあります。
未見の方はあまりいないかもしれませんが、両作品ともに、もし見てないなら人生損してますレベルの映画作品と言えます。
「砂の器」は松本清張の原作と映画では少々ストーリーが異なるのですが、個人的には原作をきっちりと整理して各人の役割やその裏側の心理をより明確に描いた映画のストーリーの方が圧倒的に好みです。原作を超える映画ってあまり無いのかもしれないが、この映画にはそれを感じる。
なんとなく晩年は色物扱いの感があった丹波哲郎の地道な捜査を続ける刑事の熱演ぶり(森田健作も良いなあ)も見どころです。脇役たちも素晴らしい。
そして人間味あふれる警察官を演じた緒形拳、、、言う事ありません。
緒形拳演じた、三木巡査という人間味あふれる魅力的な役柄。
保護された秀夫が三木の元に落ち着くことがどうしてもできなかった理由を考える。秀夫は三木に愛情を感じていなかった訳ではなく、父親である本浦千代吉と長い旅をしてきた間に積もってしまったものに対峙することが出来なかったのだと感じます。己の中に存在する相反する感情をどうしても処理することができなかった。
「どうすることもできないこと」って生きていると遭遇しますよね。
どうすることもできないこと、自分のうちに収めることもできない、、、どれほど訴えかけても何かが帰ってくる訳ではないこと、、、やるせない人の業を感じます。
この映画はその一端を描いているのではないかと感じます。
この作品は橋本忍と山田洋次の共同脚本です。
そういえば加藤剛さんも先日鬼籍に入られてしまいました。素晴らしい作品を残してくれた。
そして黒澤明の「七人の侍」、、、、
これはもう今更語ることもない日本映画の奇跡です。
こちらは黒澤明、橋本忍、小国英雄の共同脚本。
安土桃山の頃、秀吉の天下統一前夜の時代が舞台。
映画は前半の「侍集め」からもう名場面の連続なのですが、作品中、強く印象に残るシーンがいくつかあります。
火が放たれた深夜の山塞(砦)。野武士につれさられ慰みものにされていた農民利吉の女房が火災に気付き、一度は声を上げて周囲に知らせようとするが、ふと思いとどまり笑みを浮かべるシーン。
炎の照り返しに美しく映える、あの凄みのある「笑み」が表現するところの内面の感情や交錯する深い思い。このあと、一瞬邂逅した利吉と目が会い、苦痛に顔を歪めまた自ら炎の中に身を投げていく悲愴なシーン。
この間、彼女にはセリフは一切ありません。
演じた島崎雪子はこの時まだ23歳。ん~素晴らしい演技力です。
火の中に戻った女房に追いすがる利吉。
利吉を引き留め助けようとした平八が野武士の銃弾に倒れる。
脳裏に焼ついて離れないシーンです。
戦闘中のほんの束の間の休息の時間。寡黙で己に対して極めて冷徹な久蔵が勝四郎から「あなたは素晴らしい人です」と憧憬の眼差しでストレートな思いをぶつけられた後に、本当にこっそりと見せる歪んだ笑顔。ここに込められているのは、はにかみなどと言う浅い感情ではない。勝負にのみ明け暮れ、生きることそのものが常に真剣勝負であり修行である剣客の内面にひっそり息づく、溢れんばかりの優しく穏やかな人間性をこの一瞬で表現したこれまた奇跡的な瞬間です。
野武士との戦の終盤、種子島が炸裂、土砂降りの雨の中、胸を押さえ倒れこみながらも剣を「上へ」投げつける久蔵。撃たれた久蔵の元に形容し難い悲鳴混じりで駆け寄るが何もできず狼狽える勝四郎の感情の大きな揺れ。
その揺れをそのまま受け、迸る菊千代の無謀な怒りと突進。
このあたりは映画をご存知の方は一々頷いてくれそうですが、本当、名場面の連続です。
結局、平八、五郎兵衛、久蔵、菊千代と倒れた侍は皆、種子島の犠牲となっているんですね、、、農民vs侍、刀vs種子島という図式もあり。
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最終講義 生き延びるための七講 (文春文庫)
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人文学者・哲学研究者の内田樹の「最終講義――生き延びるための七講」の中に「七人の侍の組織論」という講演録が収められています。
共生のための知恵について、どのようなタイプの共同体が生き延びることができるか?というテーマで語っています。
構成員のうち、もっとも非力なものを統合の軸にしている組織こそがそれだと。集団のパフォーマンスを高めるにはこの皆で守るべき非力な
ものこそが必須の存在である、という組み立て。
内田さんは七人の侍に見るこの七人の集団は最小の数で構成された「高機能集団」であるとしています。
リーダー(勘兵衛)、サブリーダー(五郎兵衛)、イエスマン(七郎次)、切込み隊長(久蔵)、トリックスター(菊千代)=二つの領域にまたがって生きるもの、苦しい時に重宝な男(平八)、非力(勝四郎)で、非力な彼を他の6人が教育し導く。=集団のクッションの結び目となる存在=死なせてはならない存在、で構成された集団ということ。
現代の大きな組織においては平八と勝四郎の重要性を理解しない上層部の人間が多いとか。
また逆に少数派のベンチャー等では勘兵衛と七郎治と久蔵だけで組織を作ろうとするケースがあること。
などなど七人の侍から話が広がっていく、興味深い講演録です。他にも内田さんの面白い講演が収められています。興味のある方は是非ご一読を。
橋本忍さん、素晴らしい脚本をありがとうございました。
これらの作品はこれから先もずっと人の心を動かし続けるでしょう。素晴らしく確かなものは古びないですね。
何もなしとげられていない自分自身の存在を顧みて嘆息するばかりです。
このブログ、記事は頑張って書いているのですが見てくれる人少ないです、、、まあ内容が薄いからな~、、、
