ゴールドベルク変奏曲 / グレン・グールド | 音楽見聞録

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バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年デジタル録音)/グールド(グレン)
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 久々の更新になってしまいました。

 グレン・グールド。13歳でプロのピアニストとしてデビューするも64年の演奏を最後にステージでの活動を止める。

 それはコンサートにおいては自身の状態にかかわらず最後までの演奏を強要されることへの抵抗なのか?真相は良くわからないけれど、それ以降グールドは精力的な録音のみの活動に移る。


 グールドを世界的に有名にしたのはこのバッハのゴールドベルク変奏曲の55年録音盤。それから26年ぶりに録音されたのが本作である。グールドが50歳で急逝するのが82年10月。この録音が行われたのは81年4月から5月。正に最後の名演とでも呼べそうな雰囲気だが、この年齢なので決して「老成」しているとか、「集大成」という言葉は似合わない。


 55年盤と本作を比べて色々評論もなされているようだが、とにかく81年録音の本盤は音がずば抜けて素晴らしい。相変わらずピアノの向こうで唸っている音痴な声もしっかり記録されている。


 この作品2曲のアリアを挟んだ30の変奏曲から成る50分少々の作品だが、本当に色々な佇まいの曲がある。単にバッハを演奏しているというよりもグールドというフィルターを通して「ハイ!」と元気よく提示された、しっかりと咀嚼され消化された「生きた」バッハの音楽がここにはある。バッハという名前に振り回され、自分自身を表現できない演奏家も多い中、グールドのバッハはまるで自分自身の作品のように聞こえてくる。

 テクニックが素晴らしいとか装飾音の付け方が個性的だとか、最早そういう次元ではない。


 進化し深化して行く彼自身の一瞬がはぎとられた記録のようだ。録音のデータを見てもわかるとおり、録音は一日ではなく2月をまたぐ7日間に分散して行われている。そこには演奏を強要されていない自由奔放な姿勢で演奏と対峙するグールドがいる。


 様々な「かくあるべし」を排除する姿勢。音楽を金持ちの高尚な趣味から一般庶民の手に引き戻してくれるパンキッシュなピアニスト。


 ゴールドベルクの不眠症解消のために作曲された、と言われている本作では決して眠る事は出来ませ~ん!ぐんぐんと迫ってくるピアノのフレーズ。グールドの演奏法や曲解釈はバッハの真意とは異なるのかもしれないけれどバッハの音楽の中に内包されている何かとてつもなく大きく大切なものが継承されているのではないかと思う。


  これを聞いていると本当に頭の中が整理されて行きます。希有な名盤。