解体旧書

解体旧書

 福沢諭吉著『福翁自伝』。
 幕末、明治の激動の中を生き抜き、わが国の明日を先導し続けた人物が、自らを語った。我々はこの書で〝類なき偉人〟の生涯を知り、大きな勇気を与えられるであろう。
 拙ですが、私が全文を現代語に訳します。

 福沢諭吉『福翁自伝』

   第1章 幼少の時            
   第2章 長崎遊学            

   第3章 大阪修業            

   第4章 緒方の塾風           

    第5章 大阪を去りて江戸に行く   

   第6章 初めてアメリカに渡る    

   第7章 ヨーロッパ各国に行く    

   第8章 攘夷論

   第9章 再度アメリカ行き

   第10章 王政維新

   第11章 暗殺の心配

   第12章 雑記

   第13章 一身一家経済の由来

   第14章 品行家風

   第15章 老余の半生


 

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<前回より続く>

 

≪小笠原壱岐守≫

 

 というのは、その時に唐津の殿様で小笠原壱岐守(おがさわらいきのかみ)という閣老がいる。それから横浜に浅野備前守(あさのびぜんのかみ)という奉行がいる。それ等の人が極秘密に言い合わせた事と見えて、5月の初旬10日前後と思いますが、いよいよ今日という日に、前日まで大病だと言って寝ていた小笠原壱岐守がひょいとその朝起きて、日本の軍艦に乗って品川沖を出て行く。するとイギリスの砲艦(ガンボート)が壱岐守の船の尻に尾(つ)いて走る。

 

 というのは、壱岐守は上方に行くと言って品川湾を出発したから、もし本当にその方針を取って本牧(ほんもく)の鼻を廻れば英人は後ろから砲撃するはずであったという。ところが壱岐守は本牧を廻らずに横浜の方へ入って、自分の独断で即刻に賠償金を払って仕舞った。十万ポンドを時の相場にすればメキシコドルで四十万になる。その正銀を、英公使セント・ジョン・ニールに渡してまず一段落を終りました。

 

<以下、次回>

 (2018.5.26記)

 


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<前回より続く>

 

≪米と味噌と大失策≫

 

 それからまた可笑しい事がある。私の考えに、これは何でも戦争になるに違いないから、まあ米を買おうと思って出入りの米屋に申し付けて米を30俵買って米屋に預け、仙台味噌を一樽買って納屋に入れておいた。

 ところが期日が切迫するに従って、切迫すればするほど役に立たないものは米と味噌。その30俵の米をどうするといったところが、担いで行かれるものでもなければ、味噌樽を背負って駆けることも出来なかろう。

 

 これは可笑しい。昔は戦争のとき米と味噌があればよいと言ったが、戦争の時ぐらい米と味噌の邪魔になるものはない。これはまあ逃げる時はこの米と味噌樽は捨てて行くよりほかはないといって、その騒動の真っ盛りに大笑いを催したことがある。

 その時にも新銭座の家に学生が幾人かいて、私はその時二分金で百両か百五十両持っていたから、この金を独りで持っていても策でない。いざといえば誰がどこにどう行くか分からない。金があればまず餓(かつ)えることはないから、この金は私が一人で持っているよりか、家内が一人で持っているよりか、これは銘々に分けて持つのが宜しかろうというので、その金を四つか五つに分けて、頭割にして銘々それを腰に巻いて行こうと、用意金の分配まで出来て、明日か明後日はいよいよ戦争の始まり、ほかに道はないと覚悟したところが、ここに幸いなことがある。

 

<以下、次回>

 (2018.5.25記)

 


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<前回より続く>

 

≪事態いよいよ迫る≫

 

 事が喧(やかま)しくなれば閣老は皆病気と称して出仕する者がいないから、政府の中心はどこにあるか訳が分からず、ただ役人達が思い思いに小田原評議のぐずぐずで、いよいよ期日が明後日といった日になって、さあ荷物を片付けなければならぬ。

 今でも私の所に傷のついた箪笥がある。いよいよ荷物を片付けようというので箪笥を細引きで縛って、青山の方へ持って行けば大丈夫だろう、何もただの人間を害する気遣いはないからと言うので、青山の隠田(おんでん)という所に呉黄石(くれこうせき)という芸州の医者がいて、その所に行ってどうか暫くここに立ち退き場を頼むと相談も調い、いよいよ青山の方と思って荷物は一切こしらえて名札を付けて担ぎ出すばかりにして、そうして新銭座の海浜にある江川の調練場に行って見れば、大砲の口を海の方に向けて撃つような構えにしてある。

 

 これは今日明日のうちにいよいよ事は始まると覚悟を定めた。その前に幕府から布令(ふれ)が出ている。いよいよ兵端を開く時には浜御殿、今の延遼館(えんりょうかん)で、火矢(ひや)を挙げるから、それを合図に用意致せと言う市中に布令が出た。

 江戸っ子は口の悪いもので、「瓢箪<兵端>の開け初めは冷<火矢>でやる」と川柳があったが、これでも時の事情は分かる。

 

<以下、次回>

 (2018.5.24記)

 

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