グランドシティの事件から1ヶ月。
上谷は普通に学校に通っていた。ニュースでも取り上げられたが、出てくるのはあの研究者ばかりで上谷や壮太に関しては何も出てこない。
放課後。曾根田に誘われ、『エンザンシティ』に向かっているところだ。話では、自然が広がっている美しい場所、だそうだ。しかし、そこにも『エンザンスクエア』という立派な施設が建っている。電車の中で、上谷とフリーズマンが話をしていた。
「でもさ、何であの研究者しかニュースでやんないの?プラズマンDELETEしたの俺とお前じゃん」
「実際に戦ったのは俺じゃないかよ。お前ただ口をあけて黙って見てただけだろうが」
「何言ってんの!? 俺がちゃんとオペレートしてたからお前が勝てたんだよ」
「んなの最初だけだろ? やってねぇのにやったみたいに言うな、やってる詐欺だな」
「ッ…。ま、今日のところはこのぐらいにしといてやんよ。べ、別にあんたのために」
「そんなテンプレコメ聞いても嬉しくないから黙っててください」
「…」
またもや気まずい空気が流れ始める。もちろん、いつも通り上谷がフリーズマンを睨みつける。
(なんで毎回…)
とりあえず咳払いをする。そして、話題をもとに戻した。
「で。さっきの話だけどさ。本当のヒーローってのは表に出ないもんなんだよ」
「ん? そうなのか?」
心の中だけでため息をつき、画面から姿を消した。フリーズマンが言うには、『自分の体の調整』らしい。
「……、逃げたな」
PMC内部では、フリーズマンが何かのデータを見ている。上谷に見られないように、プロテクトを何重にも欠け、表上にでないようにPMCの最深部に隠してあるものだ。そして、そのデータには人の体と、Avatarの体が並んで表示され、いろいろな遺伝子データや、『精神データ』と言われる、人のすべてがデータになったものの情報が出ている。フリーズマンは、体の調整などしていなかったのだ。
「……、精神データを丸ごと使った…、ね」
暗い空間で、ただ一人でデータを見つめながら拳を握る。
エンザンシティにある、『エンザンパーク』についた。周りからは叫び声や、会話の声でにぎわっている。
「おい、ここ田舎なんじゃ…」
「シッ。そこは突っ込むな。わかる? こういうのっていろいろ大変なんだから。それにさ、都会に比べれば小さいしね。ほら、ぬ」
「中の話は結構です。で、曾根田を探さないとね。どこだろ…、! あれは…」
奥には、勝負服らしきものを着て、ベンチでPMCをいじっている曾根田だ。曾根田も上谷を見つけて手を振っている。しかし、上谷は嫌な予感しかしていなかった。冷や汗をかいている。
「…、これって」
「デートじゃないの?」
フリーズマンにきっぱり言われてしまった。上谷は顔を真っ赤にして一歩ずつゆっくり歩きはじめる。
「お、お前、し、知ってたの?」
「当然。ところで、顔が真っ赤ですなー」
「う、うるさいィ…」
どんどん勝手に進む足。自分で止められない。
(な、何か…)
しかし、ここで一つの救いの手が。しかし、これはとんでもない言葉だった。それを、フリーズマンがはなつ。
「リア充爆発しろ」
足が止まった。上谷はすぐに近くにあった橋に行き、PMCを川に落とそうとする。
「どうしようかなー、このゴミ」
「ごっ、ゴミって…、え、あちょっと、やめっ…」
上谷とフリーズマンがギャーギャー騒いでいるのを、曾根田はあきれた顔でじっと見ていた。そして、PMCにむかって喋りはじめる。
「何あれ?」
「見ないことをお勧めする」
上谷と曾根田が合流して1時間程度。すでに荷物を何個か持たされている上谷。顔がげっそりとしている。しかし、曾根田はこれを気にせず楽しそうに歩く。
(もしかして、これだけのために…)
そんなわけない、と心の中だけで結論付けトボトボと後をついていく。
「とりあえず荷物どうにかしないとね…、いったん帰る?」
このとぼけた発言を、PMCから突っ込む声が聞こえた。
「バーカ。荷物預かってくれる場所ぐらいあんだろ? ほら、あそこ」
「むっ」
少しむかついた曾根田。とりあえずおさえて、ハンターが言っている場所に向かう。上谷はこれを見て不自然に思ったのか、フリーズマンに喋りかけた。
(フリーズマン? ハンターって…)
(愉快な奴だよ)
はぁー、と興味なさそうな声で返事をする。それを聞いてフリーズマンも説明する気が失せたのか、黙ってしまった。
「上谷? どうかした?」
「はっ、はい!?」
突然曾根田に喋りかけられ、少し驚く。
(なんでこういうのすぐ勘づくんだよッ!?)
曾根田は「ん?」と、少し変な顔をして上谷をじっと見つめる。
「…、怪しいわね。何か隠してるんじゃ…」
「はっ、ははは…」
そして、上谷がとった行動は―、
逃げる
目的地に向かって全力疾走だ。曾根田も、これを見て追いかけるが、荷物を持った上谷が圧倒的に不利だ。そして、捕まった。背中をつかまれて姿勢を崩す。起き上り、荷物を持って後ろを振り返った。すると、悪意のある視線でこちらを見つめる人物が。
「え、えーっと…」
一方的な説教がはじまった。
荷物を預けて、外にあるテーブルに座り昼食をとる2人。上谷は先程の説教でさらにげっそりとしている。
(な、何でこんな目にあわなきゃなんないんだよ…)
せっかくの休日を曾根田に潰されている気しかしない上谷。しかし、曾根田は笑顔で昼食をとっている。
「どうしたの? 食べないの?」
手に持っているホットドックを上谷に向けた言う。先程まで笑っていた顔が少し真剣な表情になっている。上谷は何か不自然に思いながらも、言葉のままに自分の目の前に置いていたホットドックを手に取り食べ始めた。
「それでいいのよ。それで、今日読んだのは遊びのためじゃないの」
「ん? まあ、さすがはスクエアのネットバトラーだな。で、ここで何かあったの?」
曾根田は、話によると小6の時にスクエアから公式ネットバトラーの免許を貰っていたらしいのだ。この免許があると警察と同じように、さまざまな事件を解決できる。しかし最近は、免許を持ってもいない上谷と壮太が事件を解決しているのを聞いて少し自分の印象が薄れてきているのを実感しているらしい。曾根田はホットドックをテーブルに置くと、小さなバッグから何か紙とケーブルを差し出した。ケーブルはバッグの中から出ている。おそらく、中には何か機会が入っているのだろう。曾根田は無言でテーブルの上に置かれてあった上谷のPMCを取り、ケーブルをさすとデータを送信し始めた。
10秒後。ケーブルを抜いて、バッグにしまうと紙を上谷に見えるように置いた。
「今、あなたのPMCにデータを送ったわ。フリーズマンもよく目を通しておいてね。で、これなんだけど…」
上谷は紙に書かれてあることを丁寧に見ていく。
「『GATE』? …、なんだこりゃ」
「簡単に言うと、ここにGATEの基地があるから調査してきてってことね。ほら、地図もあるでしょ? こういうのは警察に任せるべきものだと思うんだけどね。トップからは団員を見つけたら確保しろって言われているわ」
あきれた顔で説明をする。上谷も少しあきれる。
「パシリ、か。中学生にこんなことさせるなんてトップも落ちたもんだな。でも、情報がほしかったからありがたいな。上谷は、どうなんだ?」
「ん? 俺も別にいいけど。そっちはどうなんだよ」
上谷が言った相手は、ハンター。人の下につくのを嫌っているAvatarだ。なので、曾根田のことも主人ではなく、パートナーとして見ている。
「曾根田の判断に任せる。GATEを叩き潰せるなそれでいい」
やる気満々に言っているハンター。フリーズマンもハンターを見て、少しやる気が出てきたようだ。
「じゃあ、行きましょうか」
残ったホットドックを手に取り、二人は食べながら歩き始めた。
エンザンパークの地下についた。あたりは真っ暗で、懐中電灯なしでは行動がとれない。曾根田は懐中電灯を2個取り出して、一個は上谷に渡した。懐中電灯をつけて、あたりを見渡す。
「…、これ基地っていうのか?」
周りには電源がついたコンピュータとイスが数個しか置かれていない。
「もうここは破棄された場所のようね。でも、確率は低いけどデータはゲットできるかも。それに、奥に厳重にロックされた扉があるわ」
曾根田が指さした場所を見ると、厳重にロックされた扉がある。横にはケーブル端子がある。曾根田はそこに向かって小走りをした。上谷も後をついていくようにして行く。
「じゃあ、ゲートインを…」
「ここは私だけでいい。行くわよハンター」
PMCを手に持ち、ケーブルをさす。
「コード604、ハンター、ゲートイン!」
掛け声をともにAvatarを電脳へ送った。中にはあふれるほどdreamがいる。おそらく侵入された時のためのものだろう。
「dreamだらけだぜぇ、曾根田ー」
「いつも通りやればいいわ」
(そういえば、ハンターが一人で戦うところ初めてみたな…)
上谷は、ブレイバーやフリーズマンと一緒に戦っていたハンターしか見ていない。
すると、早速ハンターが行動に出る。
「グルォォォオオオオオオオオオオオ」
雄叫びとともに、背中からとげが飛び出て目つきが変わった。どうやらいっきに片付けるようだ。ハンターは一直線にdreamの群れに突っ込んでいく。
「お、おい、だ」
グオンッ! 一瞬の出来事だった。気づけばdreamがすべてDELETEされており、ハンターの背中に出ていたとげもなくなっていた。曾根田はハンターをゲートアウトさせると上谷のほうを向いて、
「これがハンターと私の力よ。あんまり甘く見ないでほしいわ」
そういうと、曾根田は一人で扉の奥へ行ってしまった。上谷は何が何だかさっぱりの様子で突っ立っていると、
「上谷」
フリーズマンが何か不思議そうに話しかけてきた。上谷はPMCを取り出して、画面を見て、
「ん? どうした?」
「今のハンター、無理してないか? あれは暴走するかもな」
フリーズマンが突然言い出した。上谷は「冗談だろ」、と思いながら、
「えっ、まさかー」
と、適当に済ました。上谷はPMCをしまうと、曾根田の後をついていくように奥に進んでいった。