ピエール・ルメートルさんの「邪悪なる大蛇」(橘明美・荷見明子訳)を読みました
作者の序文によれば、本作は1985年に最初の小説として書き上げたものの、どこの出版社にも送らず自らお蔵入りにしていた作品だそうです
そこを読んだときは、「ああ、これは『面白ければとっくに出版されているわけで、面白くないからお蔵になったんだ』の確認作業になるのだろうな」と感じましたが、この予想はド派手に裏切られました
本作は作者の初期衝動が爆裂した超怪作で、とんでもなく面白かったのです!
主人公のマティルドは63歳の女性で、過去にレジスタンス活動において、とにかく肝っ玉が据わっているし、激しい拷問も平然とこなすということで周囲から一目置かれていました
平凡な結婚をして娘を設け、夫を亡くした後に、マティルドはレジスタンス活動での上官だったアンリから殺し屋にスカウトされます
期待に応えて完璧な結果を出し続けたマティルドでしたが、しだいに認知症の症状が出始めてついに暴走するようになります
その暴走っぷりがとにかくすごい!
絶望感と理不尽さに満ち満ちたエピソードがスピーディに繰り広げられます
作者は序文で「私は登場人物に対して容赦がなさすぎると言われるが、現実の人生だってそうではないか」と述べていましたが、いやいやいくらなんでもこれは容赦なさ過ぎでしょ(作者もそういうツッコミ待ちなのでしょうけど)
冒頭の登場人物リストに載せる意味がないのではというキャラクターもいて、もはやギャグです
後半のバトルシーンには手に汗を握りましたし、ラストもそれまでの伏線を生かし切った見事なものでした
今年読んだ小説の中で、現時点で一番面白かったと言ってもいいデキです
これだけの作品がなぜ30年も放置されていたのかが全くわかりません(それとも、その点からしてフィクションなのか)