夕木春央さんの「十戒」を読みました
昨年発表された「方舟」は、とてつもない傑作でした
本作は表紙のデザインが「方舟」と同じ系統ですし、そもそもタイトル自体が同じジャンルになっています
夕木さんは、インタビューで新興宗教の二世であったことを告白されていますので、そのときの体験から出てくるイメージに基づいた作品なのだろうかとも感じました
また、「ノックスの十戒」というミステリにおける黄金律が存在しているとおり、「十戒」という言葉とミステリの相性の良さも事前の期待をかき立てます
本作は、直径300メートル程度の無人島に9名の男女が上陸するところから始まります
この島は主人公である女性のおじが別荘にするために所有していたのですが、その変わり者のおじが急死したことから、リゾート物件として利用できないかどうかを調査することになったわけです
ところが、上陸してみると、島の中央にある小屋には大量の火薬があり、どうやら爆弾の製造が行われていたようです
困惑した一行でしたが、とりあえず一晩泊まることにしたところ、夜が明けてみると早速1人が殺害されたうえに、殺人者が書いたと思われる紙片がみつかります
そこには、これから残った者に遵守してもらう10のルールと、もし違反した場合には爆弾を爆発させるということが記載されていました
典型的なクローズドサークルであるにもかかわらず、「犯人が誰かを知ろうとしてはならない」という逆説的なルールが課されるところは面白い設定ですね
小さな島の中央であれだけの爆薬に点火されれば、全員が死亡することは火を見るより明らかですから、みなは必死でルールに従いますが、殺人は続きます
果たして、誰が何のために?
犯人自体は割とすぐに思いつきますが、それは作者も承知しており、二重三重に仕掛けを施してきます
クリスティのアレが援用されていますし、なによりビッグサプライズが最後に用意されているのです
ミステリ作家が一生で一回しか使えないと思われる「トリック」がここで使用されるとは!
そして、爆発オチなんてサイコー!
というわけで十分満足しました
ただ、卓越したホワイダニットと悪魔的なラストに驚かされた「方舟」に比べてしまうと、どうしても小粒に感じられます
変なたとえですが、スターウォーズの「帝国の逆襲」みたいな感じでしょうか
果たして、この方向性での次はあるのでしょうか?
裏主人公があまりにも破格なので、短編には収まりきらないだろうし、テーマ的にも「日常の謎」なんてとても受け付けられないでしょうから、極めて難しい注文になってしまいます
でも、夕木さんならそこをなんとかしてしまいそうですよね
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