夕木春央さんの「方舟」を読みました
デビューからこれまでの二作は、いずれも明治から大正にかけての時代が舞台になっていましたが、本作は現代が舞台です
若い男女6人が、そのうちの1人の親が所有する山奥の別荘で休日を過ごしていたところ、そばにある不思議な地下建造物の廃墟を見に行こうということになります
自然にできた巨大な地下空洞を利用した三階構造の建造物に侵入した彼らは、山で道に迷ったという3人家族と一緒にそこで一夜を過ごすことになりますが、大きな地震が起きて閉じ込められてしまいます
この建造物には、入ってきた出入口の他に、地下三階の反対側にも出入口があるのですが、かなり以前から地下水が地下三階を満たしてしまっているようであり、地下三階を通って向こうにいくことはできません
以前この建造物を使用していた者がそんな地下三階を行き来するために使ったとおぼしきスキューバの道具が2セット残されていたものの、それぞれの出入口の外を映し出している2つのモニターの画像からは、そもそも向こう側の地上出口は地震のために塞がれてしまっているようであって、最初に使った出入口から出るしかないという結論になります
しかし、その出入口に通じる扉のすぐ外を巨大な岩石が塞いでいます
その大岩を地下二階から階下に引きずり落とすことはできそうなのですが、この操作をした者が必然的に地下二階に閉じ込められてしまう構造になっているうえに、地震のせいで地下水が急に増水してきているので、長く地下二階に閉じ込められることは死を意味します
そのような状況下で、主人公らがここに来るきっかけを作った別荘の持ち主の息子が殺害されます
閉じ込められたメンバーは、犯人を突き止めてその者に地下二階の操作を押しつけようと画策するのですが、それをあざ笑うように殺人事件は連続して発生していきます
フーダニットは比較的当たりをつけやすかったですし、首切りの理由は最近はやりのものでした
しかし、真のホワイダニットは全く想像もつかないもので、これは見事でした
極めて意外な真相をバックにした、ラストの悪魔的展開は本当に最高でしたね
先日「チェンソーマン」がトロッコ問題を華麗に料理していましたが、本作もある意味そうであって、手垢のついた話でも作家の腕次第でいくらでも面白くできるのだとあらためて感心しました