柚木麻子/Butter | 弁護士宇都宮隆展の徒然日記

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くにたち法律事務所@吉祥寺 東京大学法学部卒 東京弁護士会所属(35489) レアルマドリー・ボクシング・小説・マンガ・音楽・アート・旅行・猫などが中心のブログです

柚木麻子さんの「Butter」を読みました

 

主人公は雑誌の記者をしている女性で、世間でカジマナと呼ばれる被告人に独占取材を試みます

 

カジマナこと梶井真奈子の周りでは3人の男性が連続して不審死を遂げており、殺人罪で起訴されて第一審で有罪となった梶井は、現在東京拘置所で控訴審を待っているという状況です

 

これは当然実在の著名事件を元ネタにしているわけですが、それはあくまで設定だけの話で、本作は全くのフィクションです

 

主人公は、女性嫌いを公言している梶井のふところに入り込もうとして、美食家ぶりをブログに書き連ねていた梶井の指示どおり食事をとっては彼女に感想を報告します

 

あるときはエシレバターを使ったバターしょうゆご飯、あるときはロブションでのディナー、あるときはウエストのバタークリームケーキ


さらには前提状況まで求められ、あるときはセックス直後に塩バターラーメンを食べ、あるときは焼きたてのケーキを交際相手に振る舞います

 

そうして次第に梶井との距離を詰めていく主人公ですが、徐々に感化されすぎて周りとうまくいかなくなっていきます


「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」を地でいく主人公

 

梶井と主人公との関係に加えて主人公の学生時代からの親友を絡めていくところがとてもうまくできていて、独身でバリバリ働く主人公と結婚して専業主婦になった親友それぞれが、梶井にかかわったことをきっかけに壊れていくところが読み応え満点でした

 

そこでは若い女性の生きづらさというテーマが具体的に描かれており、非常に現代的な意義を有する作品になっています


もちろん、男性には男性の生きづらさがあるのであって、作中のオタク中高年男性をステレオタイプに描いて切って捨てているところはあまりに表層的といえますが、1つの作品で何もかも追い求めることはできないと思うので、これはこれでしょうがないですね

 

主人公についてもその親友についても背景からしっかりと書き込んでいくスタイルのため、序盤は少し冗長な感じもしましたが、その甲斐あって中盤はとても引き込まれました

 

終盤はまた少し冗長な感じになりましたが、作者としては登場人物が壊れっぱなしのまま物語を終わらせるのではなく、彼女たちとその周りの再生についても絶対に書きたいということだったのでしょう


十分に満足のいく一冊でした