ドン・ウィンズロウ/ストリート・キッズ | 弁護士宇都宮隆展の徒然日記

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くにたち法律事務所@吉祥寺 東京大学法学部卒 東京弁護士会所属(35489) レアルマドリー・ボクシング・小説・マンガ・音楽・アート・旅行・猫などが中心のブログです

ドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ(A Cool Breeze on the Underground)」を読みました

 

25年以上前に発表された作者のデビュー作です

 

これは大傑作!

 

主人公ニールはニューヨーク育ちでコロンビア大学院で英文学を専攻している青年ですが、幼少期は生まれながらに父を知らず、母もヤク中でドラッグを購入するためにポン引きの言うがままに売春をするという悲惨な環境で育っていました

 

そんな中で、義手の探偵ジョーの財布を掏った際に捕まってしまったことから、ニールの運命が大きく変わります

 

彼の素質を見込んだジョーから、探偵としての特訓を受けるシーンが非常に面白い!

 

尾行術、室内の捜索術、格闘術、人探しの術、ニールはジョーからすべてを学びます

 

さらにジョーのバックの組織のボスにも見込まれ、学校に通わせてもらうようになったのです

 
そんなニールが依頼されたのは、1976年8月の党大会までの5か月間で、副大統領候補に選ばれそうな上院議員の娘アリーを探し出すこと
 
アリーは蝶よ花よと育てられたにもかかわらず、何一つうまくやれないためにすっかりグレてしまい、まだ17歳にもかかわらず薬と男に溺れており、どうやら現在ロンドンにいるらしいとのこと
 
ニールは、アリーの母からさらなる重大な秘密を打ち明けられます
 
もうこの設定がうまい!ロンドンでポン引きコリンに囲われて薬漬けの生活を送っていたかわいそうなアリーとの関係で、ニールの母への屈折した感情がクロスオーバーされるという展開にはグッときました
 
かつて似たような任務で失敗して救出対象を死なせてしまった過去にさいなまれるところや、次第に芽生えるアリーへの恋心を押さえつけようとするところなどもお見事です
 
また、プロットも極めて優れていて、アリー奪還を巡るコリンとのやり取りはずっと手に汗握る展開でしたし、傲慢で卑劣な上院議員をやり込めるラストにはあっと言わされます
 
この作者については、ぜひとも他の作品を読みたいと思わされましたね
 
なお、本作は吉田秋生さんの「バナナフィッシュ」に雰囲気がかなり似ています
 
ニールは容姿こそ平凡で、どこにでもいるストリートキッズの1人であったという設定ですが、悲惨な生い立ちはアッシュとかぶっています
 
彼がジョーから探偵術を学び取るところは、あたかもアッシュがブランカから色々学び取るところのようでしたし、ジョーのことを「父さん」と呼んでいるところも、アッシュがマックスを冗談半分で「父さん」と呼ぶシーンに重なります
 
そんなわけで、舞台はロンドンとはいえ、コリンはオーサーを思い浮かべながら読みました
 
コリンの手下もいかにも「バナナフィッシュ」に登場しそうなキャラで、中国マフィアが出てくるところもそれっぽい
 
いったん奪還したアリーの薬抜きが軌道に乗ったにもかかわらず、コリンに捕まってしまって、目の前でドラッグを注射されてしまうという絶望的なシーンもいかにも
 
探偵たちのバックにいるボスが健全な銀行家であって、ゴルツィネのようなマフィアではないところは異なりますが、本作は「バナナフィッシュ」が好きな人には絶対のお勧めです