伊坂幸太郎/死神の浮力 | 弁護士宇都宮隆展の徒然日記

弁護士宇都宮隆展の徒然日記

くにたち法律事務所@吉祥寺 東京大学法学部卒 東京弁護士会所属(35489) レアルマドリー・ボクシング・小説・マンガ・音楽・アート・旅行・猫などが中心のブログです

伊坂幸太郎さんの新作長編「死神の浮力」を読みました

死期が迫った人間のそばにやってきて、死の可否を判定する死神の千葉が登場する作品です

千葉を登場人物とした短編集に「死神の精度」があり、これは非常に好みであったため(2008-03-02 )、本作もとても楽しみにしていました

千葉は狂言回し的な存在で、本作の主人公は10歳の娘を殺されてしまった作家です

主人公は、伊坂作品によく出てくるような悪意の塊のようなサイコな犯人から、犯行後にれっきとした証拠を見せられますが、それが故に自らの手で復讐することを誓うようになります

犯人は事前に仕組んでいた巧妙な仕掛けをもって裁判で無罪を勝ち取り、さらに主人公に悪意あるわなをかけてきますが、主人公も彼を追いかけ・・・


伊坂さん自身による超傑作「マリアビートル」(2010-09-30 )を思わせるところがあり、3分の1くらいまではかなり面白く読みました

しかし、犯人に魅力がないうえに、彼のやることがかなり荒唐無稽で少々白けてしまいましたし、主人公と犯人との直接対決も盛り上がり不足に感じました(最後に主人公が言い放つセリフは、犯人との関係性に照らしてみた場合、何の効果もないはずでしょ!)

また、犯人に関するオチも主人公に関するオチも、どちらも某マンガの愛読者にとっては既視感を免れないものです(特に犯人に関するオチは割れやすすぎて、もう「考えるのをやめ」そうになってしまいました)

我が国の成人男子の25人に24人はそのマンガを読んでいるというべきなのですから(?)、そこもひと工夫が欲しかったと思います

そういった次第で、主人公が父の人生を回想しつつ人間の死について考えるところを含めて、本作は平野啓一郎さんの「空白を満たしなさい」(2012-12-26 )を想起させますが、両者を比較すると後者の方が明らかに好みといえます


今回はやや期待しすぎな感じに終わりましたが、引き続き新作は楽しみにしたいと思っています