労災認定が否決されても民事の損害賠償が認められます
今回は「労災認定が否決されても民事の損害賠償が認められます」を解説します。
業務中の事故があった場合、労災が認定されます。
これは、業務が原因で、ケガや病気になった事の因果関係が明白だからです。
そして、事故等の遭遇した人が不幸にも障害が残ったり、お亡くなりになった場合は、民事の損害賠償請求が行われています。
労災保険でカバーされる部分は一部であり、「会社の責任はもっと重い」として民事裁判が行われています。
さて、労災認定が降りなければ、損害賠償とはならないのでしょうか?
これに関する裁判があります。
<損害賠償請求事件 大阪地裁 平成30年3月1日>
〇Aは店舗及び宅配を行う飲食店に勤務していた。
〇Aは肝臓障害で入院し、その後、酒が残ったまま出勤して嘔吐しながら仕込み作業を行うなどしていた。
〇その後、店舗を異動となり、店長として勤務したが、二日酔いのまま出勤するなど、仕事に支障が出てきた。
〇会社は「仕事に支障を来すようであれば辞めてほしい」と伝えた。
〇その後、Aは「抑うつ状態、神経症、不眠症」の診断を受けて休職となった。
→Aは「過重な労働があってうつ病となった」として医師の診断を受けていた。
〇そして、Aは5か月後に自殺した。
〇遺族は労災認定を求め、裁判を起こしたが、地裁で請求を棄却され、控訴したが高裁でも棄却され、確定となった。
〇それから、遺族は会社等を相手取り損害賠償金の支払いを求めて、裁判を起こした。
そして、裁判は以下の判断を行ったのです。
〇過重な労働が存在し、Aの心理的負荷を「強」と認定。
〇飲食の診断で仕事に支障が出ていたが、業務と発病、自殺の因果関係を否定するものではない。
〇代表取締役の使用者責任も認めた。
この裁判を詳しくみていきましょう。
Aが店長になったことにより業務過重性については、店の売上ノルマ等も課せられておらず、心理的負荷が大きいとは認められないと判断されました。
他方、長時間労働については医師からの話、パート、アルバイトからの話で、「3か月休みなく、82日間連続勤務していた」と認められたのです。
これにより、うつ病が発症した要因と考えられると結論づけられたのです。
遺族が行った労災請求に係る不支給決定に対する取消訴訟ではAの過重労働は認められませんでした。
しかし、損害賠償請求では過重労働が認められました。
これは82日間の連続勤務が認定されたため、因果関係がありとなったのです。
前提となる「自殺と過重労働の因果関係があり」となったので異なる結果となりました。
いずれにせよ、本事例は長時間労働の有無、休日取得の有無をより適切に管理することの重要性を再認識させられる事例です。
過重労働は働く社員に大きな負担をかけるものですが、社員の家族等の周りの人間も巻き込む問題と認識しないといけません。