36協定をオーバーする固定残業は無効でしょうか? | 港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!!

36協定をオーバーする固定残業は無効でしょうか?

今回は「36協定をオーバーする固定残業は無効でしょうか?」を解説します。

 

労働基準法で、従業員に働いてもらうことのできる時間は週40時間、1日8時間と決まっています。

 

しかし、多くの会社では法定の時間で業務が収まらず、残業を実施しているところがほとんどと考えられます。

 

法定の労働時間を超えて、残業をさせる場合、会社と従業員代表とで労使協定を結んで、この協定を所轄労働基準監督署に届け出て許可となるのです。

 

このことが労働基準法36条に記載されているので、この協定書を通称「36協定」と呼んでいます。

 

そして、36協定においては、「1日」「1日を超えて3ヵ月以内の期間」「1年」のそれぞれについて、延長することができる時間を定めることができます。 

 

仮に、36協定で決めた時間を超えた固定の残業時間を設定した場合、この制度は果たして有効なのでしょうか?それとも無効となってしまうのでしょうか? 

 

これに関する裁判があります。

 

<コロワイドMD事件 東京高裁 平成28年1月27日>  

 

〇社員Aは固定残業代をもらって仕事に従事していた。

 

〇会社が業務手当は月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間の対価として支給していた。

 

〇Aは「月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反する」「36協定に反する」ので、この時間外労働を予定した定額の割増賃金は無効であると主張した。

 

〇そして、裁判を起し、残業、休日、深夜労働についての割増賃金及び付加金を請求した。

 

〇原審(横浜地裁平成26年9月3日)では、Aの主張が退けられ控訴となった。

 

そして、高裁の判断は以下となったのです。

 

〇Aは会社の業務手当に関する規定は、労働基準法37条に違反して無効であると主張しているが、労働基準法15条及び同法施行規則5条は、固定残業代に対応する想定時間の明示を求めていない。

 

〇業務手当として支払われている額が明示されている以上、法に定める割増率をもとに、労働基準法所定の残業代が支払われているかを計算して検証することは十分に可能である。

 

〇会社は実際に計算を行ったものを書証として提出している。

 

〇会社の業務手当に関する規定は、そもそも残業代を支払う旨を定めているにすぎない労働基準法37条に違反しているとはいえない。

 

〇残業代の支払の定め方として無効であるともいえないとして会社側の主張が通った。

 

この裁判のポイントをみてみましょう。

 

まず、会社は業務手当を

 

〇月当たり時間外労働70時間、

 

〇深夜労働100時間

 

の対価として支給していると主張しました。

 

そして、Aは月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし、36協定にも反するから、この制度は全部又は一部が無効であると主張したのです。

 

しかし、労働省告示第154号の基準(上限45時間)は時間外労働の絶対的上限とは解されず、労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないと判断されたのです。