定額残業制度で実残業時間数の明示は必須でしょうか?
今回は「定額残業制度で実残業時間数の明示は必須でしょうか?」を解説します。
定額残業制度の導入は、企業規模を問わず浸透しています。
そんな中、定額残業制度の法的要件について、質問を受けるケースが多いです。
その要件は以下となります。
〇明確区分性(通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業の賃金が明確に区分されていること)
〇対価要件(割増賃金の対価として支払われていること)
〇差額支払の合意(定額部分を超える割増賃金の差額を支払う合意)
しかし、昨今の労働基準監督署の指摘も加味すると、つぎの項目もクローズアップされます。
〇固定残業に該当する労働時間
〇固定残業に該当する賃金
この両方が明確になっていないと固定残業制度そのものが認められない可能性が高くなるともいわれています。
この判断に疑問も多く、果たして、労働時間が明記されていないと定額残業制度は無効となってしまうのでしょうか?
これに関する裁判があります。
<日本ケミカル事件 最高裁 平成30年7月19日>
〇薬剤師として勤務していたAは「月額給与」と「業務手当」を支給されていた。
〇採用確認書には「業務手当はみなし時間外手当である」と説明され、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」との記載があった。
〇賃金規程にも、業務手当を「時間外手当の代わりとして支給する」と明記し、会社と各従業員の間で確認書が交わされていた。
〇原審(東京高裁 平成29年2月1日)では、「業務手当が何時間分の時間外手当になるのか伝えられていない」等を理由に業務手当は割増賃金として認められないとした。
そして、最高裁まで裁判は続き、以下の判断が下されたのです。
〇雇用契約書、確認書そして、賃金規程において業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨の記載がある。
〇会社と各従業員との間で作成された確認書で、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載され、業務手当が時間外労働等に対する対価として位置づけられていた。
〇業務手当は約28時間の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり、実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではない。
〇業務手当は時間外労働等に対する対価として支払われていたと認められる。
→会社側の主張が通った(高裁の判断と逆の結論となった)
賃金のうち割増賃金がその部分なのかが明確であることは必要ですが、定額残業代として、月例給の一部を残業代としたり、手当で毎月一定額を支給する方法も可能であることがはっきりしました。
但し、あらかじめ雇用契約書や賃金規程に明示されなければ何の効力も持たなくなるので注意が必要です。