産業医の診断で会社が判断する場合のリスク
今回は「産業医の診断で会社が判断する場合のリスク」を解説します。
精神疾患、とりわけ「うつ病」の社員の取扱いについてのご相談は後を絶ちません。
業種、業態、企業規模を問わず、いろいろな会社が精神疾患の問題で悩んでいます。
この問題で特に難しいのが復職の判断についてです。会社の思惑で「復職させたくなく、退職になりませんか?」と相談されるケースも多くあります。
しかし、「復職させたくない」という意見が出る場合は、冷静な判断ではない場合がほとんどです。
感情的に「戻したくない」「戻られると厄介だ」との感情から判断される場合で、医学的な判断から会社がアプローチしていない場合が多いです。
これに関する裁判があります。
<神奈川SR経営労務センター事件 横浜地裁 平成30年5月10日>
〇従業員Aがうつ状態、従業員Bが適応障害で休職していた。
〇それぞれの休職期間が満了となるので、それぞれの主治医の診断で、診断書が提出され「復職可」となっていた。
〇会社は産業医の判断もあおぐとのことで、産業医に診断してもらい、その結果2名とも「復職不可」となった。
〇会社は産業医の判断で2名を「自然退職扱い」とした。
〇それぞれの従業員は「この判断はおかしい」として裁判に訴えた。
そして、裁判所の判断は以下となったのです。
〇退職時の健康状態は2名とも「従前の業務が行えるまで回復」しており、休職事由は消滅している。
→主治医の判断は信用できる
〇就業規則に「休職事由が消滅した場合は復職する」となっている。
〇従業員側の主張が通り、会社が敗訴となる。
この裁判でのポイントは「産業医の意見の信用性」についてです。
産業医の証言等では、従業員らの状況は「うつ病、適応障害が寛解し職務を行えない状況ではない」とのことでした。
そして、産業医が職場復帰不可とした理由は、休職前の状況からすると、職場の他の従業員に多大な影響が出る可能性が高いというもので、これは、病気の状況とは関係のない事情だったのです。
産業医はこの2名について、冷静に判断できる状況ではなく、組織の一員としての倫理観や周囲との融和意識に乏しいことに加え、職場の状況に原因があるとしたのです。
この2名はいままで、他の者に対し、誹謗するのに終始したと判断していたのです。
しかし、これらの職員間のトラブルは医学的な判断とは異なり、裁判所はこれを理由に産業医の判断を採用できないとしたのです。
この裁判でも分かるように、診断書に「復職不可」となっていればそれを理由に復職させないと判断するのはリスクが高いのです。
精神疾患等で休職させた社員を「戻すのか」「戻さないのか」について、医者の診断書は必須ですが、会社が判断する場合、疑問がわいたら「産業医、指定医」などのセカンドオピニオンは必要です。
そして、意見にギャップが出たら、そのギャップについて、会社として調査し、それから判断すべきなのです。