定年後再雇用の給与は、定年前の水準よりいくら下げられますか? | 港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!!

定年後再雇用の給与は、定年前の水準よりいくら下げられますか?

今回は「定年後再雇用の給与は、定年前の水準よりいくら下げられますか?」を解説します。

 

ほとんどの会社で、定年をむかえた社員を再雇用します。

 

高年齢者法が改正になり、定年延長、定年廃止、65歳までの雇用延長のうち、どれかを選択して運用することが義務付けられています。

 

そして、多くの中小企業は「雇用延長」の措置を選択していますが、

再雇用時の労働条件、特に「給与をいくらにするか?」で頭を抱える社長が多いです。

 

そんな中、平成28年5月、東京地裁で衝撃の判断があったのです。

 

<長澤運輸事件 東京地裁 平成28年5月13日>

 

〇会社を20~34年間、正社員でトラックのドライバーとして勤務した3人が定年を迎えた。

 

〇60歳の定年を迎え、1年契約の嘱託社員として再雇用されたが、仕事内容は正社員時代と同じで給料は2割前後減らされた。

 

→退職金は支給されていた。

 

→運転手らは賃下げに同意していた(会社側の意見)。

 

〇嘱託社員3人は「給料が減ったのは違法」として、正社員の時にもらっていた給料との差額を請求するため裁判を起こした。

 

そして、会社側は「定年後も同じ賃金で再雇用する義務はない」とし、退職金の支払いも実施しているので、違法ではないと主張しましたが、裁判所の判断は以下となったのです。

 

〇会社の経営状況は悪くなく、賃金を抑える合理性はなかった。

 

〇再雇用が年金をもらえる時期までのつなぎだとしても、「嘱託社員の給料を下げる理由にはならない」とも指摘。

 

〇「その他の事情」がない限り、同じ業務内容にも関わらず、賃金格差を設けることは不合理。

 

〇嘱託社員3人の主張を全面的に認め、会社側にそれぞれ約100~200万円を支払うよう命じた。

 

→会社側は敗訴となった。

 

 

その後、裁判が上告されるとのことでしたので、皆さんには「裁判の行方をみてから判断しましょう」と回答いたしました。

 

それから高裁では、地裁の判断がほとんど覆り、会社側の主張が通り、その後、裁判は最高裁へと判断の場が移ったのでした。

 

そして、平成30年6月1日、最高裁が判断を下したのです。

 

この判決は高裁の判断とほぼ同じで、

定年後再雇用者の賃金について、正社員と異なる点で、再雇用者は有期契約労働者で、かつ、老齢年金等の支給もあり、労使自治に委ねられる部分があるとしています。

 

さらに、個別に賃金項目を検証し、総額のダウンは結果として容認、ただし、精勤手当についての差異を不合理と判断しました。

 

この判決を踏まえ、定年後再雇用制度を設けている会社では、定年後再雇用者の労働条件の設定がどのような考えでなされ、どんな目的で設定したのかを見直す必要があるかもしれません。

 

最高裁は、個別の手当毎に合理性を検証していたので、賃金項目ごとに検証する必要があるでしょう。