社員がミスをした時の損害賠償は?
今回は「社員がミスをした時の損害賠償は?」をお伝えします。
先日、ある運送会社の社長から質問を頂きました。
「社員が居眠り運転で接触事故を起こしました。そして、会社のトラックと積んだ荷物が壊れてしまいました。被害額は数百万円です。この場合は、社員に損害賠償をしてもらえるのでしょうか?」
さあ、これはどうなるのでしょうか。
社員への損害賠償は、労働基準法で次のように決められています。
「損害賠償の額を事前に設定してはならない」「違約金を支払う約束をしても無効」
具体例を挙げると、
○遅刻、無断欠勤したら、罰金○○円を払う
○不注意により不良品を出したら損害賠償として○○円を負担する
というような場合は【無効】となります。
労働基準法でこのように決めているのは、こんな理由からです。
○単なるミスに対して、予め決められた損害賠償を負うことは社員にとって不利
○社員が損害賠償を負う = 金銭的な拘束、それが給与天引きという形になれば、一定の労働期間の拘束を受ける
この2つの理由が大きいのです。
ここでポイントとなるのは、「予め損害賠償の額を設定してはならない」ということです。
だから、損害賠償【そのもの】を禁止していないのです。
実際に、損害賠償を請求するケースもあるのです。
しかし、社員に全額を負担させることはできません。
なぜなら、原因の一部が会社にも【必ず】あるからです。
例えば、
○過重労働だった
○社員のミス防止に十分な予防、配慮をしていたか
○ミスが起きた場合、被害を最小限に抑える対策をしたか
などの【会社側の理由】があるのです。
一般的に、業務上の交通事故は、社員に過失があれば、2割程度の損害賠償額です。
これは裁判の結果も同様です。
しかし、飲酒運転などの悪質な場合は違います。
7割程度の負担を社員に命じた判例もあります。
以下、具体的な過去の事例です。
○飲酒運転で死傷事故、積載物も破損(1971年、大阪地裁)
→社員負担70%
→会社管理のずさんさも問われた
○宝石の入ったかばんを置いて作業し、盗難(1994年、東京地裁)
→社員負担50%
○安全運転を怠りスリップ、トンネルに衝突(2001年大阪地裁)
→社員負担5%
→会社の安全指導に問題ありと指摘された
このようになっています。
冒頭のご質問の事故の場合、連日の深夜勤務が続いていました。
だから、会社の管理や安全教育にも問題があります。
裁判等になれば、会社の責任が大きく問われるでしょう。
結果、数%の損害賠償が妥当と考えられます。
ということは、会社の被害額が数百万円でも、社員の負担額は数万円~数十万円になるのです。