過酷な研修は問題ですか?
今回は「過酷な研修は問題ですか?」を解説します。
先日、ある社長とお話しをしていたら、次のような発言がありました。
「働き方改革で労働時間を減らせ!と言われていますが、このままでは軟弱な社員ばかりになってしまいます。これは打破するために、精神的、肉体的に厳しい研修を実施して、精神を鍛えたい。」
確かに、働き方改革で「残業時間の規制が強化」され、過重労働は「即罰則」と考えられます。
しかし、多くの社長から「仕事の量をこなさないと質の向上がのぞめない」と言う意見もあります。
このような状況で営業や業務の効率を上げるための研修についてのご相談も多いですが、精神を鍛えるというのは、なかなか難しいと考えらえます。
そして、参考となる裁判が以下になります。
<サニックス事件 広島地裁福山支部 平成30年2月22日>
〇会社に中途入社した社員Aが新人研修を受講した。
〇研修中は研修センターに宿泊しなければならず、外出等も禁止されていた。
〇研修内容に「24キロを5時間以内で歩くプログラム」があった。
→「地獄の研修」と称されていた
〇社員Aはこれに臨み、4時間51分で歩ききった。
→社員Aは48歳、身長171センチ、体重101キロであった
→完歩しないと正社員にはなれないといわれていた
〇その後、病院で右足関節離断性骨軟骨炎などと診断され、足の一部の関節の可動範囲が狭まるなど両足に障害が残った。
〇社員Aは会社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償金の支払いを求めた。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇足の障害は研修によるものと認定。
〇参加者の個人差や運動経験に配慮していない点で、無理があるプログラムと指摘した。
〇事前の訓練で痛みを訴えたのに中断させず、医師の診察も受けさせなかったことは安全配慮義務違反にあたる。
〇1,592万円の賠償を命じた。
この裁判を詳しくみていきましょう。
まず、歩行訓練ですが、参加者の年齢が幅広く、体力にも大きな差があるにも関わらず、個人差や運動経験の有無等を全く配慮していない点で、無理があるプログラムと判断されました。
また、研修中は外出禁止ということで、自ら医療機関に行く機会を奪っていたし、会社側から医療機関への受診させることに積極的ではなかった。
研修を受ける者は毎日、健康状態チェック表や業務日報を提出させていて、社員Aは膝と足首の痛みを訴えていたのです。
さらに、社員Aは体重が100キロ近くあり、「無理な運動をさせれば負傷する可能性が高いことを十分認識していたにもかかわらず、無理なプログラムを組んだ」と指摘しました。
ただし、裁判所としても「あきらめない、最後までやり通す社員の養成を目指す」と言う研修目的は是認できるとしています。
しかし、肉体的な訓練を行うのであればそれなりの体制、準備が必要となるのです。