昇給停止は不利益変更なのでしょうか?
今回は「昇給停止は不利益変更なのでしょうか?」を解説します。
「年配者の給料が高すぎるので、給与体系を変更したい」
上記のようなご相談をお受けすることがよくあります。
給与体系を変更することは、一部の社員には大きな不利益変更となる可能性もあり、なかなか会社として取り組むのが難しく放置してしまうことも多くあります。
給与体系の設計で、職能資格制度が有名で、この制度は職能に対して対価が支払われるとなっています。
しかし、個人の職能の能力の上限は年齢的には40歳ぐらいで頭打ちとなり、その後は組織やチームのリーダーとしてのポジションに対して、その責任に比例して金額が増加する体系となっています。
だから、年功序列といっても、単に加齢とともに金額を青天井で上げるということではありません。
しかし、定期昇給をストップすることは労働条件の不利益変更となるので有効なのでしょうか?
これに関する裁判があります。
<紀北川上農協事件 大阪地裁 平成29年4月10日>
〇元職員Aら10人は平成27年4月1日までに定年等で農協を退職した者である。
〇農協は平成14年以降、給与規定を改定し、満57歳に達した職員をスタッフ職とする制度を設立する変更を行った。
〇変更の時点で労働組合は反対の意思表示はしなかった。
〇変更後、各支店には就業規則等が備え付けられており、社内イントラネットでも閲覧可能であった。
〇Aらは平成21年~平成24年にスタッフ職となったが、制度変更に不服を述べたことはなかった。
〇Aらは退職後、「この変更は労働条件の不利益変更である」とし、定期昇給が実施されたことを前提とした未払賃金、賞与及び遅延損害金の支払いを求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇労働条件の変更は不利益に変更するものであるが、変更時に説明会を実施し、その後、変更後の規定類が各支店で閲覧可能な状態だったので周知された。
〇不利益の程度が大きいとまでは言えない。
〇変更後の内容が相当性を欠いているとは認められない。
〇制度変更後10年以上運用されていて、定着している。
以上により、定期昇給、賞与無しの改訂は有効と判断されたのです。
この裁判のポイントは労働条件の件で、「将来にわたり、定期昇給、賞与支給が抑制されるのは不利益変更に該当するか」ということです。
単に賃金等を下げることは、労働条件の不利益変更に該当しますが、本件では、「不利益変更では無い」と判断しています。
その理由は「労働者の不利益の程度が軽い」「労働組合との交渉状況で、反対の意思が示されていない」「就業規則等の変更について、説明会の実施、閲覧可能な状況等相応に考慮されている」これらの要素を踏まえて、制度変更が有効と判断されたのです。
この裁判を参考に、給与等の制度変更で考えることは、上記の3つが柱となるでしょう。