懲戒処分を実行するときのポイント
今回は「懲戒処分を実行するときのポイント」を解説します。
「懲戒処分を実施しようと思いますが、どの世うなプロセスを踏めば良いのでしょうか?」
懲戒処分を実施することは、会社にとって「よっぽどの事」があったからでしょう。
しかし、頻繁に発生する訳でもなく、実際に実行するとなると躊躇してしまうケースが多く見受けられます。
但し、会社の就業規則の懲戒処分の項目に以下が記載されているはずです。
〇懲戒の種類
→訓告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など
〇懲戒の事由
→懲戒処分に該当する行為はどんなものかを具体的に記載する
この記載が無ければ、懲戒処分を実施することはできないと考えられます。
仮に、就業規則に懲戒処分の項目が詳細に明記されていても、すぐに就業規則等に記載通りの処分を実行して良いのか?迷うところです。
これに関する裁判があります。
<クレディ・スイス証券事件 東京地裁 平成28年7月19日>
〇社員はセクハラ行為が2年程度続き、また、他にも懲戒処分に該当する行為を行っていた。
〇会社は社員に対し「諭旨解雇」の実施を決め、本人に通知したが本人は同意しなかった。
〇会社は諭旨解雇の通知後1ヶ月経過した段階で「懲戒解雇」を行った。
〇社員は「懲戒解雇は無効」と主張し、裁判を起こした。
→本判決確定の日までの賃金月額100万円等の支払いと賞与約1,000万円等も請求した
→会社に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料300万円等)の支払いも求めた
そして、裁判所は以下の判断をしました。
〇解雇無効
〇未払賞与等支払請求及び損害賠償請求は棄却
この裁判を詳しくみていきましょう。
裁判所は「セクハラ行為等は懲戒事由に該当し、社員は相応の懲戒処分を受けて然るべきであると考えられる」としました。
しかし、社員に対し、事前に「注意、指導」が行われていないことが問題となったのです。
懲戒処分における「極刑」といわれる「懲戒解雇」と、その前提である「諭旨退職」という極めて重い処分が社会通念上相当であると認めるには考慮すべきことがあったのではないかと判断されています。
つまり、「注意、指導なく、いきなり懲戒解雇等は重すぎる」ということなのです。
事前に注意、指導等を行い、「降職」等の懲戒処分の選択肢を探るべきでは無いかと言うのが裁判所の考え方なのです。
そして、懲戒解雇とその前提である諭旨退職は、いずれも無効ですが、諭旨退職及び懲戒処分が無効であることから直ちに不法行為が成立するわけではありません。
よって、未払い賞与等と損害賠償金の請求は棄却となったのです。
注意、指導のプロセスが重要な事なので、これを外して、懲戒処分は無効となる可能性が高いので、必ず、注意、指導を実施し、改善されなければ懲戒処分というプロセスを守りましょう。