社員の同意があれば、労働条件は下げられる?
今回は「社員の同意があれば、労働条件は下げられる?」を解説します。
会社が社員の給与等の労働条件を、下げることを「労働条件の不利益変更」と言います。
そして、勝手に理由もなく「労働条件の不利益変更」することは、原則として法律で禁止されています。
では、労働条件を下げる場合で法的に有効となるには、どのような方法が あるのでしょうか?
これを、大まかにまとめると、「社員個人の同意を得て変更する方法」「就業規則による一方的変更(変更に合理性がある場合に限る)」があります。
労働契約も契約ですから、原則的には契約当事者の同意によって、その内容を変更することができます。
そこで、労働条件の変更について対象となる社員等の同意が得られれば、原則的に不利益変更も有効となります。
したがって、会社は労働条件を下げる場合、まずは社員に対して説明を行い、同意を得ることに注力すべきです。
そして、どうしても同意が得られない場合は、就業規則を変更することで、労働条件の変更を行うしかありませんが、この場合は変更に合理性が認められる場合のみ有効となるので、条件的にはかなり厳しいです。
しかし、社員からの同意が得られれば、全て条件が有効となるわけでもないのです。
これに関する裁判があります。
<山梨県民信用組合事件 最高裁 平成28年2月19日>
〇信用組合は別の信用組合を吸収合併した。
〇吸収された信用組合出身の元職員12人が退職金を大幅に減らされたのは不当として、合併前の基準での支払いを求めた。
→退職金の支給額は旧規定の2分の1以下
→自己都合退職の場合は退職金が0になる場合もある
〇1審、2審は「退職金を大幅に減額する変更の同意書」に署名押印をしているとして、請求を棄却した。
〇元職員達はこの結果に納得せず、最高裁の判断を仰ぐこととした。
そして、最高裁は次の判断を下したのです。
〇労働条件は会社と社員との個別の同意によって変更することができる。
→労働条件の不利益変更でも社員の同意があれば有効
〇社員の同意をもらうにあたり、「至った経緯」、「変更の内容」などを十分な情報を開示し、説明する必要がある。
〇この事件は、吸収合併された信用組合の経営破たんを回避するための合併で、労働条件についての説明は行われたが、合併を急
ぐあまり充分な説明ではなかったのではないか。
〇立場の弱い職員が形式的に合意していても、それだけで合意の有無を判断せずに、情報提供の内容、状況等に照らして判断すべきであるとして高裁に差し戻した。
この結果から言えることは、同意書に署名押印があっても、それだけでは必ずしも労働条件変更合意とは認められないということです。
社員が「労働条件の内容を理解して、同意書にサインをしているか」まで必要ということなのです。
そのことを最高裁が示したのです。より具体的な労働条件を提示し、社員等に理解を求めることが重要なのです。