段階を踏まずに解雇をしたら無効か?
今回は「段階を踏まずに解雇をしたら無効か?」を解説します。
「勤務不良の社員を辞めさせたい」というご相談は非常によくありますが、これを理由に実際に解雇を行った例は少ないことも事実です。
なぜなら手続きが煩雑で、就業規則等に反して懲戒委員会等を開催しなったために、懲戒解雇が無効とされた裁判等があります。
<中央林間病院事件 東京地裁 平成8年7月26日>
〇病院オーナーの依頼により、ある医者が院長に就任した。
〇院長は病院を誹謗中傷し始めた。
〇院長は規定に反して、勝手に医療機器を購入した。
〇病院オーナーは規定違反の旨の通知を院長に通知した。
〇今後を考えて、懲戒解雇を検討した。
〇病院の就業規則には「職員の懲戒は懲戒委員会に基づいて実施」と記載があったが、病院オーナーは総婦長との相談で解雇を実施。
〇院長は解雇無効を訴えて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断をしました。
〇院長という肩書きのため、就業規則による懲戒委員会は必要ないと考えられるが、本人の弁明を聞く機会等の代わりの方法がとられていない。
〇病院オーナーと総婦長との相談のみで解雇を実施したことは、瑕疵が大きい手続きである。
〇懲戒解雇が無効とされ、病院側が負けた。
このように、就業規則に厳格な規定が定められていても、運用を間違えると、解雇が無効となってしまう可能性があるのです。
一般的には、
①始末書の提出など
②減給
③出勤停止など
④退職勧奨の実施
⑤弁明の機会を与える
⑥懲戒解雇の実施
という流れとなります。
懲戒解雇の実施前に、懲罰委員会などで本人の弁明の機会を与えた上で、判断することがより客観的とみられるのです。
懲戒処分も軽いものから重いものへと段階的に実施し、 それでも駄目なら手続きに乗っ取り、解雇の判断をすべきなのです。
しかし、この流れを踏まずに解雇を実施した場合、全てが無効となってしまうのでしょうか?
これに関する裁判があります。
<南淡漁業協同組合事件 大阪高裁 平成24年4月18日>
〇この職場は4人しかおらず、職員は会話等をせずに孤立していたため、他の職員との会話や伝達さえも行わない状態が長く続き、説明や意見を求められる状態ではなかった。
〇段階的な処分の実施もこの職員の態度から考えると、改善の可能性は考えられない。
〇組合は無断振替等の発覚後、退職届を求めたが、この職員は黙り、弁明の機会等は当然に不可能と考えられた。
〇解雇は有効。
第一審では改善される可能性を考えて、解雇無効と判断されましたが、控訴審では職員が4人しかいないという職場の環境等を深く検討し、現実的な判断が下されたのです。
ここはケースバイケースになるので、状況次第となるので、考えるべきことは「懲戒処分が段階的に可能か?」等ということです。