川崎にあるクラブチッタを訪れたのは2度目である。

 

 前回は何と「奇跡!」と思われたイタリアのロックグループ《i Pooh》の来日公演であった。

 

 本当にこんな所(失礼!)にPoohが来るのだろうか...そんな半信半疑で迎えたライヴであったが、来日ステージを待ちに待ち続けた日本の熱烈なファンの熱気に包まれ、Poohのメンバーもヒートアップ! まさに「伝説の」ライヴとなった。

 

 新潟のホブさんとそんな6年前の余韻に浸りながら、会場へ。

 

 今回は前から3列目という絶好のポジションであったが、事前に予習(結局シングル・コレクションの4枚組のうち1枚目のみ聴くにとどまってしまった)した限りでは、余り期待度は高くはなかったというのが正直なところである。

 

 チンクエッティの、69歳という年齢からも、「懐メロ」に浸るという程度にしか捉えていなかった。

 

 ホブさん曰く「もしかしたら私が最年少かな?」というのもあながちジョークではなく、50代以下は10パーセント以下といった客層であった。

 

 オープニングは物悲しいバイオリンの音色でスタート。

 

 「悲しき天使」である。

 

 

 

 弦楽4重奏(バイオリン2、ビオラ1、チェロ1)にドラムス、ギター、ベース、コンサートマスターのピアニスト、そしてハモンドオルガン(+シンセ)の9名編成の楽団を従え、次から次へとヒットナンバーを繰り出す。

 

 このバンドの演奏がとても素晴らしく、単なる「懐メロ」風ではなく、チンクエッティのヒット曲を見事に現代に蘇らせてくれた。一方で、ハモンドオルガンとストリングスの音色が60年代の息吹を見事に感じさせてくれていたのである。

 

 私たちより上の世代の方々はチンクエッティの歌を実に良く知っていて、イントロが流れる度に周りの方々は満足そうに大きく頷いている。

 

 特に中央2列目にお座りのスキンヘッドの男性(まるでお寺の住職さんのような風貌)がとてもノリが良く、イントロが流れる度に大きなゼスチャー(時には指揮!)を繰り返していた。

 

 おそらくはチンクエッティの大ファンで、シングル盤が出る度にレコード店に行き、ステレオから流れるチンクエッティの歌声に淡い恋心を抱かれていたのだろう...などと勝手に想像していた。

 

 若年層(?)の我々はそれが何とも楽しく、イントロが流れる度に「ご住職」の方に視線を向けていたのである。

 

 休憩時間にロビーに向かうと、ホブさんの「最年少」という希望的観測はもろくも崩れ去った...。

 

 何と、歌手の松城ゆきのさんがそこに! お一人で、しかも立ち見席とのことだった。

 

 チンクエッティが椅子に座りながら歌っている姿を見て、「私もあんな風にさりげなく歌いたい!」と目をキラキラさせながら語ってくれた。

 

 当日は30名前後の方々が立ち見でご覧になっていた。シート席(パイプ椅子)も前席との間が50㎝もないほどに狭く、相当詰め込んでいたと思われる。それでも満席で、立ち見が出るくらいなのだから、本当に熱心なファンの方々が多いということなのだろう。

 

 所狭しとステージを移動しながら、歌い、踊り、見事なパフォーマンスを披露してくれた。

 

 最後はもちろん「夢みる想い」を歌ってくれたのだが、何と周りの方々はみんなイタリア語で熱唱しているではないか! 若輩者(?)のホブさんと私も呆気にとられる。

 

 デビューから50年、今なお日本のファンの方々に愛されているチンクエッティ。

 

 美しく、チャーミングで、そして実に若々しい歌声に酔いしれた。

 

 コンサート終了後、ホブさんと二人で《ラチッタデッラ》のレストラン「肉と牡蠣市場」でしばしの音楽談義。

 

 二人でロゼワインのボトルを空け、美味しい肉料理に舌鼓を打ち、大好きな音楽を語る...本当に至福の時間であった。


    詳細なセットリストはホブさん、よろしく!