ジレンマ∞ハピネス -36ページ目

ジレンマ∞ハピネス

悩まぬ者、進むべからず。

親愛なる五十嵐浜へ



海のない土地で生まれ育った私にとって、

海のそばで暮らした4年間は今でも大きい存在だ。


夏は大勢でバーベキューをした。

夕暮れを肩を並べて見送った後、

波音は一層ボリュームを上げて花火を盛り上げる。

両手でぐるぐる回して円を描いた華やかな手持ち火花、

ポンッと音を立てて夜空に舞い上がった打ち上げ花火、

誰が最後まで残るか囲んだ線香花火、

漠然とした将来像を語ったり、

そんなことより目先のテストを不安がったり、

付き合い始めたカップルの近況を聞いたり、

流れ星が不意に流れたりして、

明け方の静かな波打ち際で解散するのが嬉しかった。


秋は海岸沿いをずーっとドライブした。

肌寒くてもジェラートをほおばって冷たい風を浴びた。

釣り人は竿を放置して煙草を吸っている。

親子連れが鳩にクッキーをあげていた。

夜の飲み会までまだ時間があるから、

古着屋まで行こうか、近くの水族館に行こうか迷う。

「このまま海沿いの道まっすぐ行くのは?」

友人の提案にうなずいて私たちは車に乗る。

じゃあ空港まで行って展望台で何機か迎えよう。

きっと宴会は鍋だから、少し冷えても大丈夫だから。


冬は一度だけ海の花を見た。

ふわふわの泡が視界一面に広がる。

足元は膝まで真っ白で、雪合戦のようにして遊んだ。

大きく波打つ遠くの海原ではカモメがまとまって飛んでいる。

その下に魚群があるのかもしれない。

このまま駐車場に車を置いていたら錆びてしまうだろう。

あそこの洗車場は100円でできたはずだから、帰りに寄ろう。

できればこの素敵な風景は彼氏と見たいけど、

最近は会いたいと思えなくて、

友だちと遊んでいるのが楽しくて、

友だちもそんな感じになっていて、

私たちは小さな悩みや憂鬱を先延ばしにして、

ひたすら白いふわふわを追った。


春の息吹を感じる風のなか、久々に晴れた日本海にたたずむ。

この4年で、ずいぶんたくさんの人に出会った。

すぐに離れる人もいれば、今の今までつながる人もいる。

あのときぼんやりしていた未来は、就職という形で霧散した。

ずーっと続いた海沿いの道路は、区画整理で少しだけ削られた。

一喜一憂の表情を全部見ているのは、五十嵐浜だけ。

フラれた朝を真っ青な空と穏やかな波で迎えたのも、

別れを惜しむ友人とのドライブを波音で演出してくれたのも、

線香花火で照らされたあの人と目が合った時も、

山に囲まれた田舎から出たからこそ出会えた場面だった。


あれから住処を転々としているけど、

10代から20代を経た海の街での暮らしを、

全く忘れられずに生きている。


親愛なる五十嵐浜へ、

毎日潮風を運んでくれてありがとう。

荒れた日も、静かな日も、毎日でも行きたい場所だった。

今は太平洋側にいて、

そっちと違って天気はいいし、サーフィンもさまになる。

でも忘れられないんだー。


親愛なる五十嵐浜へ、

もし、いつか、私の子どもがそっちで暮らすことがあれば、

その時はまた大きい心でその子を包んでください。

1年に1度やってくる梅雨。


それは夏を目前にした我慢の時期。

雨を見ながら

「もうすぐ夏だ」と言い聞かす。


最近の週末はひらすた家中族。

雨なんかだと特に。


雨だと楽しさ半減。

あたしはやっぱり晴れが好き。


年に1度やってくる梅雨が去れば

暑い夏がやってくる。


今年はどんな夏になるのだろう。


毎年のイベントは勿論だけど

東京にきて最初の夏だから

新しいイベントも恒例に追加したいな。


梅雨前線。

窓から雨粒を見てなんだか寂しい気持ち。


でも、来るから。

夏はぜったいやってくる。



「今年は例年以上に降水量が多いらしいですよ」


「そうなんだ。そんな感じしないね」



真っ青な空が広がる6月の終わり。

快晴をうらめしく見ながら室内で業務を進める。

ニュースでは各所で起こる水害を報じている。

私の暮らす町では一度台風が来て、

その後は翌日になれば忘れる程度の雨しか降っていない。


夏が近づいている。

雲の隙間から除く空の色や、

お昼時の暑さ、

夕方の太陽のオレンジ、

少しずつ夏が顔を出してきている。



またひとり、大切な人が遠くに行った。

気が付いたらそこにいて、いつの間にか去っていった。

残ったほうは、ただ寂しい。


わたしはすぐに人を好きになり、

その人とだけ遊び、一緒にいすぎて飽きてしまう。

ロスタイムに入った関係を断ち切るのが下手で、

いつもぐだぐだになって最もつまらない別れ方をする。

またかと思っていたら、そうなる前に遠くへ行った。


なにもかもは川のように流れていく。

出会いも別れも後から考えれば流れているだけだった。

せきとめようとしても隙間からこぼれていき、

半分以上逃して、諦めるしかないのかと気づく。



梅雨前線が暖気と寒気を伴って心を乱す。



暖かく湿った空気と冷たく乾いた空気がぶつかっている。

朝は寒くて昼は暑くて、何を着たらいいのかわからない。

どれをかぶって寝たらいいのかわからない。

どこを見てもどこに行ってもしっくりこない。



これまで通り、別れが次の出会いを運んでくるだろう。


今は流れていくのを待つしかないだろう。


指の隙間からこぼれていくなにもかもをじっと見つめて。




「来週から暑くなるらしいですよ」


「そうなんだ、もう夏だね」


手を止めて、窓の向こうを見た。


さよならだ。