親愛なる●●へ | ジレンマ∞ハピネス

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悩まぬ者、進むべからず。

親愛なる五十嵐浜へ



海のない土地で生まれ育った私にとって、

海のそばで暮らした4年間は今でも大きい存在だ。


夏は大勢でバーベキューをした。

夕暮れを肩を並べて見送った後、

波音は一層ボリュームを上げて花火を盛り上げる。

両手でぐるぐる回して円を描いた華やかな手持ち火花、

ポンッと音を立てて夜空に舞い上がった打ち上げ花火、

誰が最後まで残るか囲んだ線香花火、

漠然とした将来像を語ったり、

そんなことより目先のテストを不安がったり、

付き合い始めたカップルの近況を聞いたり、

流れ星が不意に流れたりして、

明け方の静かな波打ち際で解散するのが嬉しかった。


秋は海岸沿いをずーっとドライブした。

肌寒くてもジェラートをほおばって冷たい風を浴びた。

釣り人は竿を放置して煙草を吸っている。

親子連れが鳩にクッキーをあげていた。

夜の飲み会までまだ時間があるから、

古着屋まで行こうか、近くの水族館に行こうか迷う。

「このまま海沿いの道まっすぐ行くのは?」

友人の提案にうなずいて私たちは車に乗る。

じゃあ空港まで行って展望台で何機か迎えよう。

きっと宴会は鍋だから、少し冷えても大丈夫だから。


冬は一度だけ海の花を見た。

ふわふわの泡が視界一面に広がる。

足元は膝まで真っ白で、雪合戦のようにして遊んだ。

大きく波打つ遠くの海原ではカモメがまとまって飛んでいる。

その下に魚群があるのかもしれない。

このまま駐車場に車を置いていたら錆びてしまうだろう。

あそこの洗車場は100円でできたはずだから、帰りに寄ろう。

できればこの素敵な風景は彼氏と見たいけど、

最近は会いたいと思えなくて、

友だちと遊んでいるのが楽しくて、

友だちもそんな感じになっていて、

私たちは小さな悩みや憂鬱を先延ばしにして、

ひたすら白いふわふわを追った。


春の息吹を感じる風のなか、久々に晴れた日本海にたたずむ。

この4年で、ずいぶんたくさんの人に出会った。

すぐに離れる人もいれば、今の今までつながる人もいる。

あのときぼんやりしていた未来は、就職という形で霧散した。

ずーっと続いた海沿いの道路は、区画整理で少しだけ削られた。

一喜一憂の表情を全部見ているのは、五十嵐浜だけ。

フラれた朝を真っ青な空と穏やかな波で迎えたのも、

別れを惜しむ友人とのドライブを波音で演出してくれたのも、

線香花火で照らされたあの人と目が合った時も、

山に囲まれた田舎から出たからこそ出会えた場面だった。


あれから住処を転々としているけど、

10代から20代を経た海の街での暮らしを、

全く忘れられずに生きている。


親愛なる五十嵐浜へ、

毎日潮風を運んでくれてありがとう。

荒れた日も、静かな日も、毎日でも行きたい場所だった。

今は太平洋側にいて、

そっちと違って天気はいいし、サーフィンもさまになる。

でも忘れられないんだー。


親愛なる五十嵐浜へ、

もし、いつか、私の子どもがそっちで暮らすことがあれば、

その時はまた大きい心でその子を包んでください。