“全能者がつくった暗号”。
“神がつくった謎、
神があらかじめ定めた過去と未来の出来事の謎”。
近代科学の父アイザック・ニュートンは、
聖書の暗号をそう呼んだ。
今から三百年前、
彼は万有引力の法則を発見して
太陽系のメカニズムを解明し、
高度な数学体系を打ち立てただけでなく、
聖書の中に人類の未来をあきらかにする
秘密の暗号を探した。
三千年以上ものあいだ、
聖書には何かが隠されていると信じられてきた。
高位聖職者のみに知られる偉大な秘密、
神秘的な方法で発見できる新しい啓示、
何らかの形の魔術、
ある種の新しい科学、
そういうものが含まれていると考えられてきた。
だが、暗号を読み解いたのは、
旧ソ連の政治犯刑務所から釈放されて
イスラエルに移住にた数学者、
エリヤフ・リップス博士が最初だった。
三千年以上ものあいだ、
暗号を見つけたものはいなかったのである。
リップスが成功したのは、
昔はなかったある重要な道具、
すなわちコンピューターのおかげだった。
聖書の暗号には
タイマー式の錠がついていたのだった。
コンピューターが発明されるまでは開かない錠が。
この錠は、
未来を予知できる知的存在によって、
いまの時代に開くように設計されたらしい。
このことはあきらかだと思える。
三百年前にニュートンによって発見されたり、
いまから三百年後か、三千年後かに、
そのとき発明される道具で発見されるよう
定められてはいなかった。
未来を見通せる知的存在は、
人類史のなかでも、
いまのこの時代に、
暗号が解読されるよう設定したのだ。
「ニュートンに発見できなかったのはそのせいです」
とリップスは言った。
「解読にはコンピューターが必要でした。
暗号は “終わりのときまで封印され”ていたのです。」
とはいえ、二十年近く前に研究をはじめたとき、
リップスは “終わりの日”のことなど考えてはいなかった。
彼はただ数学の問題に取り組んだだけだった。
「私は統計学上、偶然の一致とは解釈できない形で
言葉が配置されているのに気づいて、何かあるぞと思いました。」
リップスはそう回想した。
「そこでコンピューターを使ってみると、
驚くべき発見があったわけです。」
リップスは旧約聖書のヘブライ語原典のなかに暗号を発見した。
旧約聖書は、そこに書かれている言葉は、
三千二百年前にシナイ山で、神がモーセに授けたとしている。
博士は単語と単語の切れ目をせんぶ詰めて、
旧約聖書の最初の五書全体を、三十万四千八百五字からなる
一本の文字列に変えた。
昔のユダヤ教の聖職者たちによれば、
これが聖書の本来の形なのである。
伝説によれば、モーセは聖書を “切れ目のない連続した言葉”
として神から授かったのだ。
リップスは、その連続した文章を何文字かずつ
規則的に飛ばしながら読むための
コンピューター・プログラムをつくった。
こうして隠された言葉があらわになったのである。
こういう暗号文はだれにでもつくれる。
あることを語っている文章のなかに、
スキップ・コード、すなわち何文字かずつ飛ばして書く方式の
暗号で、別の内容を隠すのだ。
たとえば、次のような文章をつくる。
Rips ExplAineD thaT eacH codE is a Case Of adDing Every
fifth or tenth or fiftieth letter to form a word.
(リップスは、それぞれの暗号は、四文字おき、九文字おき、
あるいは四十九文字おきにあらわれる文字をつなげたものだと説明した。)
この文章を三文字おきに読むと、
“READ THE CODE” (暗号を読め)という
秘密のメッセージがあらわれるというわけだ。
だが、聖書全体を通してこの作業を行うことは、
ニュートンも含めてだれにもできなかった。
何文字飛ばして読むか、聖書の第一行から最終行までの
どの文字からはじめるか、前から読むか、後ろから読むか、
可能性はいくらでもあって、手作業ではチェックできなかった。
コンピューターを使うことではじめて、これが可能になったのだ。
コンピューターの助けを借りれば、
聖書の本文に複雑に編み込まれた暗号情報を読みとることができた。
言葉や名前や日付や地名が、偶然とは考えられない関連性をもって
暗号化されているのを、見つけることができた。
隠された言葉は、一種のクロスワードパズルになっている。
新たな語句が見つかるたびに、パズルがつくりだされていく。
関連性を持つ語句は、現代の出来事について正確に、
ときには詳しく、述べている。
これが聖書の暗号のユニークな点だ。
ほかの書物でも、スキップ・コードで “双子の塔” という
言葉が見つかるだろうか、
“飛行機” と一緒に見つかることはない。
“ビンラディン” は見つかっても、“塔のあるこの町” という
言葉のそばには出てこない。
“双子” という言葉が “次の戦争” や “終わりの日” と
セットであらわれることはない。
「筋の通った情報が読みとれるのは聖書の暗号だけです」
とリップスは言う。
「ほかの本は、ヘブライ語で書かれたものであれ、
ヘブライ語に訳されたものであれ、そういう情報を含んでいません。
聖書だけなのです。」
彼がこの発見を数学専門誌に発表したとき、多くの学者が疑った。
論証に穴はなかったが、その結論が信じられなかったのだ。
何しろ驚くべき結論だ。
聖書のなかにそれが書かれたときよりあとの時代の出来事が
記されているというのだから。
国家安全保障局というのは、ワシントン郊外に本部を置く
アメリカの秘密諜報機関だが、そこの上級暗号解読者が、
この驚くべき事実を聞きつけて検証してみた。
ハロルド・ガンズは安全保障にかかわる暗号の作成や解読に
長年たずさわってきた人物で、聖書の暗号など
“ばかげた冗談” だと考えたのだ。
彼は自分でコンピューター・プログラムを書き、
暗号は食わせもんだと証明しようとした。
ところが、リップスの実験と同じ結果が出てしまった。
聖書が書かれたあとの時代に生きたユダヤ人の賢者66人の名前が、
生没の日付とともに暗号化されていたのだ。
ガンズには信じられなかった。
66人の賢者が暮らした町や死んだ町の名前などは
出てくるはずがないと確信していた。
だが、それらはちゃんとあらわれた。
ガンズは聖書の暗号の化けの皮をはがそうとがんばった。
ところが、440時間をかけた実験は、それが本物であることを証明した
「背中がぞくっとしたよ」 とガンズは言った。
聖書のなかに、数千年後の出来事など書きこめるはずがない。
だが、だれかが書き込んだのだ。
人間ではありえないとしたら、 いったいだれなのだろうか。
「 聖書の暗号 2」
マイクル・ドロズニン 著 より