学園に伝わる死神伝説の謎を追え!



死んでる……
30代前半だと思われるその男性の目はうつろに宙を向き、口は半開きになっている。
両手で押さえられた喉からは、べっとりと血があふれていた。



死体の周囲には人だかりができている。
その中の一人の女子学生が言った。
「あれって山内先生だよね」と。



ふいに、かすかなパトカーのサイレンが耳に入ってきた。
それは次第に近づいてくる。



「ちょっと通してくれる……」
その時、すぐ横で声がした。



橘さんだ。
僕は彼女を知っている。
転校してきて間もない僕の、少ない顔見知りの一人だ。



声をかけようとした僕をさえぎって、橘さんは死体に歩み寄った。
追いついた時、彼女は覗き込むようにしながらつぶやいた。



彼女の視線を追った先に、僕は奇妙なものを見つけた。
それはメモ用紙程度の紙切れで、真ん中に『0』という記号が活字で印刷されている。



「死神だわ……」
ふいに橘さんが言った。



この時、これが忌まわしい連続殺人の始まりにすぎないことを僕は知らなかった。



ここは森に囲まれた広大な敷地に立つ神道系高校、此花学園。
この学園に伝わる話の一つに死神の伝説があった。



死神に魅入られた者に届く3の数字の書かれた紙。
その数は届くごとに減っていき、最後には魂を刈り取られてしまうという。
そこに、冷たくなった体と、0と書かれた紙を残して……



「じゃ、捜査会議を始めましょ」
橘さんはそう宣言した。
ここは此花学園にある寮の僕の部屋だ。



僕の名前は桃井 恵。
恵と書いて「めぐる」と読む。
昨日起きた事件のせいで、学園は臨時休校に入ってしまい、僕はまだ自己紹介どころか自分のクラスさえ知らない。



そんな僕の部屋で、なぜ捜査会議が開かれているのだろう。
橘さんは言った。
この新聞部の部室を提供する代わりに新聞部に入ってもらうと。



ここは確かに僕の部屋のはずだ。
昨日、この学園寮に到着した時に寮の管理人に言われたのだから間違いない。



「転入?そんな話は聞いてないねえ」
そう言った管理人の言葉には驚かせられたが……
臨時の管理人である彼の所には僕のことはまだ伝わっていなかったのだろう。



そしてあてがわれたのが、女子寮の一角にあるこの空き部屋だ。
ここしか開いていないという。



これから二年間、何事もなく過ごせればどんな部屋でも構わない。
そう思いながら僕は部屋へと入った。
部屋の中には誰もいないはずだった。
しかしそこには着替え途中と思わしき女の子の姿があった。



これはどんな状況なのだろう。
僕が混乱していると、その女の子はポテトチップの袋を投げつけてきた。
僕は慌てて部屋から飛び出した。



ドアにつけられたプレートを見直すがやはり僕の部屋だ。
すると今度は向こうから閉じていたドアがそっと開かれた。
さっきの女の子だ。
僕をチカン呼ばわりしている。



もちろん僕はチカンなどではない。
部屋を間違えているのは彼女の方だ。



改めてここは僕の部屋だと言うと、彼女は意外なことを言った。
ここは新聞部の部室なのだと。



確かに管理人からはここが空き部屋だと聞いた。
もう一度、確認に行こうとした時、彼女は慌てて引き留めた。
彼女が言うには空き部屋を勝手に部室として使っているという。



そして彼女は提案を持ちかけてきた。
この部屋を僕に提供する代わりに部室としても引き続き使わせてもらうと。
断ったら僕がチカンだと公表するというのだ。
提案というより強制に近い。



そして現在に至る……
なぜか新聞部に加入させられてしまった僕は、橘さんと二人で捜査会議を始めた。
なんと新聞部は学園非公認であり、部員は橘さんだけだったのだ。



僕があきれていると橘さんは胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
昨日の事件で殺された被害者の写真だ。
被害者は地理担当の山内健三という教師だった。
水泳部の顧問もしているらしい。



被害者のこともそうだが、僕には気になっていることがあった。
昨日、橘さんが呟いた「死神」という言葉だ。



橘さんは此花学園に伝わると言う死神について説明してくれた。
学校の怪談のたぐいだと橘さんは付け加える。



それだけ言うと橘さんはすっと立ち上がり宣言した。
「現場百回!捜査開始よ」と。
しかし現場は警察が検証中のはずだ。



しょうがないので先生たちに話を聞きに職員室に向かうことにした。
何人かの先生に話を聞いたが、これといった情報は得られない。
水泳部の人間の方が詳しいんじゃないかと言う先生もいた。



この日はこれといった情報は得られず、僕たちの捜査は終了した。
しかし今日の聞き込みでは、水泳部という言葉をよく耳にしている。
明日は水泳部を調べてみようという事になり、橘さんは自室へと帰って行った。



翌朝、橘さんにたたき起こされた僕は眠い目をこすりながらプールへと向かった。
たどり着いたそこに建っていたのは、ずいぶんと立派な屋内プールだった。



館内はシーンとしていて人の気配はない。
てっきり部員が練習をしているものと思ったが、どうやらそうでもないみたいだ。
その廊下を歩きながら橘さんは説明してくれた。
山内先生は水泳のコーチとしてはかなり優秀で、此花学園の水泳部を地区の強豪校にしたのも山内先生の功績らしい。



廊下の一番奥まった所に水泳部の部室はあった。
部室の前まで来た時、ドアの中から女の子たちの話し声が聞こえてきた。



その声色から込み入った話をしているのがうかがえる。
その時、何の前触れもなく橘さんが部室のドアを開けてしまった。
中にいた女の子たちが一斉に振り向く。



「山内先生が殺された原因に何か心当たりはありませんか?」
橘さんがそう言ったとたん、部屋の空気がぴぃんと張りつめた。



左奥に座った制服姿の女の子が顔を背けるのが見えた。
そのつらそうな表情はいかにもおとなしそうで、清楚という言葉がぴったりな女の子だと僕は思った。



ふいに右手前の女の子が口を開く。
瞳がぱっちりした、ポニーテールの似合う明るそうな感じの子だった。
何か言いたげな様子だ。



「双葉っ!」
それをさえぎるようにソバージュの女の子が声を上げた。



その女の子は僕たちの方をキッと睨み、部屋から出ていくように言う。



いかにも部長らしい感じの眼鏡の女の子もそれに続く。
険悪な空気がびりびりと肌に伝わってきて、非常に居づらい雰囲気になってしまった。



そのまま僕たちは部室の外に追い出されてしまった。



僕たちはその足で図書室へと向かった。
橘さんには何か考えがあるようだ。



橘さんは図書室に入るなり、本が並べてある棚の一画で、あれやこれやと何かを探している。
ほどなく彼女は一冊の大きな本を持ってきた。



橘さんが探していたのは今年の卒業アルバムだった。
アルバムの最後の方に載っている部活紹介のページが目的だったのだ。
そうか、さっきの部員たちの名前をはっきりさせるためか。



思った通り、アルバムにはさっきの女の子たちの写真と名前が載っていた。
まず、浅間ひとみ、三年生。
おそらく彼女が部長なのだろう。



石井伊都子、三年生。
山内先生のことを聞いた時、つらそうに顔をそむけたことが印象に残っている。



岸本実穂、三年生。
僕らを部室から追い出したソバージュの子だ。



藤崎双葉、二年生。
部室で話を聞いた時、何かを言いかけていたっけ。
結局、先輩にとがめられ口を閉ざしてしまったが。



長山晶子、二年生。
この子だけ印象が薄いんだよな。
あの時は一言も発しなかったし。



そこまで調べた時、図書室に誰か入って来た。
あれは藤崎双葉だったはずだ。
藤崎さんはキョロキョロを周りを見渡し、誰もいない事を確認するかのように僕たちに近寄って来た。



「助けてください……」
彼女はたった一言、それも消え入りそうな声で小さくつぶやいた。



その時、図書室に誰か入ってくる音が聞こえた。
藤崎さんはビクっとなり、中庭で待ってますとだけ言うと図書室から出ていってしまった。



さっき図書室に入って来た女の子が橘さんを見つけ、こっちに歩いて来る。
どうやら橘さんの友人のようだ。



優子と呼ばれたその子はブラスバンド部に所属していて、今は休憩中なのだと言う。
二人はしばらく話していたが、僕は藤崎さんの方が気になってしょうがない。



二人が話し終わるのを待って、僕らは中庭に急いだ。
そこには藤崎さんが心細げに待っていた。



藤崎さんの表情はくもり、なんだかとてもつらそうに見えた。
しばらく悩んだ後、彼女は話し始めた。
「山内先生に『死神の呪い』をかけていたんです」と。



それを聞いた橘さんは僕に説明してくれた。
それは以前聞いた死神とセットになっているおまじないなのだという。
それは、夜の教室で憎い相手の机に『4』の数字をなぞるというものらしい。



なるほど、そうすると死神が『3』と書かれた紙を相手に届けてくれるという事か。



しかしなぜそんなことを。
藤崎さんは言った。
冬休みに会った水泳部の合宿である事件があったと。



ある事件?
僕がそう聞こうとすると、藤崎さんは無言のまま目を閉じて首を振る。
触れて欲しくないということなのだろう。



藤崎さんは話を続けた。
その事件で部員の一人が山内先生にとても傷つけられてしまったという。



その報復をしようと部長が言い出し、部員のみんなで職員室の机に呪いをかけたというのだ。



呪いで人が死ぬことなどない。
しかし藤崎さんは怯えた様子で、ゆっくりとブラウスのポケットから一枚の紙を取り出した。



そこには『3』という数字が活字で印刷されていた。



その紙は藤崎さんだけでなく、他の部員にも届けられたらしい。



「助けてください、このままじゃ、みんな死んでしまいます」
藤崎さんはぼろぼろと涙をこぼし始めた。
橘さんが、泣きじゃくる藤崎さんの肩に手を置いた。



そのとたん、藤崎さんはわっと抱き着いた。
橘さんはほんの少しだけ驚いた表情をしたが、すぐその背中に手をまわす。
「大丈夫だって」
振るえる彼女の背中をぽんぽんと叩きながら、橘さんは何度も同じ言葉を繰り返していた。




【第2夜】へ続く


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