翌日、俺は淀橋署の三好を訪ねた。
俺はそこでPCDが麻薬としては最悪の性質を持っていることを知る。
それは重度の中毒者が投与をやめると、極度の禁断症状でショック死を引き起こしてしまうという事だった。



「ただし投与量を少しずつ減らせば回復の可能性もありますが」
三好はそう言った。



「ただ、現段階では成分が分かっているだけで製法までは分からないのです」



その三好の言葉に俺はハッとした。
今、逮捕されている常習者たちは、今ある薬がなくなったら死んでしまうということだ。
となるとブローカーを捕まえ、製法を聞き出すしか他に方法はないわけだな。



その時、洋子君から電話が入った。
「由香が見つかりました」と。



俺は洋子君からの連絡で永田由香が緊急入院した病院へやって来た。



病院に入ると、そこには熊さんがいた。
熊さんは言った。
「永田由香は中毒症状を起こしている」と。



そうPCDだ。
由香はPCDにより中毒症状を起こしていた。



熊さんは由香が見つかった状況について説明してくれた。
それによると由香は川島吾郎という男の部屋で発見されたらしい。
あの川島か!



そして由香の遺書も見つかったそうだ。
川島と由香が無理心中したという方向で捜査は進んでいるらしい。
発見当時、川島は死亡していた。
腹部に刺さったナイフが致命傷だったようだ。
そして由香はPCDの過剰投与で死のうとしていたらしい。



遺書には由香自身がPCDを作った事、それが元で川島にゆすられていた事が記されていたそうだ。



PCDの製造、殺人……
少なくとも俺の知りうる彼女は、そんな事ができるような人間ではないはずだ。
どうしても腑に落ちない。
俺は現場を見せてもらう事にした。
捜査を再び正しい方向へと導く為にも……
そして永田由香を本当の意味で救う為にも……



川島の部屋にやって来た俺たちは、そこの大家から話を聞く事ができた。
それによると大家は不審な新聞配達員を見かけたという事だった。
「金髪に皮のジャンバーの男……」
それを聞いた熊さんは懐から一枚の写真を取り出した。



「そう、この男です」
大家はそう言った。
その写真の男は連続失踪事件の重要参考人として指名手配中の室岡武という男だった。



やはりこれは無理心中なんかじゃない。
由香を救う為に川島たちから押収したわずかなPCDが使用される事になるが、とても完治できる程の量ではない。
PCDのブローカー、あるいはその製造者を早急に見つけ出さなければ彼女は確実に死ぬ。
リミットはあと一週間程度……



そこへ室岡が目撃されたと言う報が飛び込んできた。
俺たちは手分けして室岡を探すことにした。


「室岡武、どこにいるんだ」



いた!
写真の男、室岡だ。
いよいよ室岡と対峙する時が来た。



奴は訝しげに俺を睨みつけると薄笑いを浮かべて近づいて来る。
どんな理由があろうと、多くの人命を危険にさらした事実に変わりはない。



有無を言わさず俺は室岡に殴りかかった。
「ぐはあ!!」
こいつの心無い行為が人の命を脅かしている。
俺はそれが許せない!
「お前には色々としゃべってもらうぞ」
俺の足元にうずくまる室岡に向かって俺は言った。



これで由香も助かる……
室岡は駆け付けた熊さんにしょっ引かれていった。



翌日、室岡の取り調べを終えた熊さんが事務所を訪ねてきた。
川島と永田由香の心中事件については白状したとのことだったが、それは何者かの差し金だったというのだ。
しかもその何者かの指示で、持っているPCDのほぼすべてをすでに売りさばいていた。



室岡はPCDに関してはただのブローカーだったらしく、製法なども一切知らなかったようだ。
黒幕がいるというのか。



その黒幕について室岡はほとんど知らないらしいが、唯一分かっているのは、それが女だという事だけだと言う。



そうだ、川島が由香に言い寄っていた事を知り得たのは誰だ?
それを利用して由香が無理心中を仕掛けたと偽装する事ができた人物は……



最初に川島の事を教えてくれたのは益田だ。
彼女に聞けば何かわかるかもしれない。
俺は大学に行き、益田を訪ねた。
すると大森なら知っているかもしれないと益田は言った。



大森助教授か。
確かに彼女は川島という名前に心当たりはないと言っていた。
これは益田の証言と矛盾する。
俺は大森の自宅を訪ねることにした。



由香が意識不明で発見された事を聞いて、もっと驚くかと思ったんだが妙に落ち着いている。
「川島という人物をご存じですか」
俺はそう聞いた。



大森の答えは「いいえ」だった。
そして大森は続けて言った。
「その男が永田さんと何か関係あるんですか」と。



今、大森は話の中で「川島という男」と言っていた。
俺は今まで「川島という人物を知らないか」という質問の仕方をしてきたはずだ。



そのことを指摘すると、「勝手に男だと思い込んでいただけだ」とはぐらかされてしまった。



大森が嘘をついている可能性は高いが、その嘘を証明できるのは病院の由香だけなのだ。
限りなくクロに近いが、それを決定付けるだけの確証はない。
俺は由香が行方不明になった時間のアリバイを聞く事にした。



すると大森は一日中、この部屋で論文を書いていたと言った。



おかしいぞ、以前聞いた時には大学にいたと言っていたはずだが。



それを告げると、またもはぐらかされてしまった。



これ以上は何も聞けないだろう。
立ち上がりかけた俺の頭の中に、一つ忘れかけていた事柄がよみがえった。
以前、大学前で見かけた中年男性の事を思い出したのだ。
なにか関係があるに違いない。
俺の勘がそう言っている。



それを聞いた途端、大森の表情が変わった。
「知っている人にそんな人はいません」
大森のその答えを聞き、俺は大森宅から引き上げることにした。



事務所に帰った俺は洋子君から手に入れた情報について報告を受けた。
川島と頻繁に会っていたという女を見つけたというのだ。



しかもその女の写真まで手に入れていた。
さすが洋子君、捜査員としても優秀だ。



そこに写っていたのは大森京子だった。
隣には川島もいる。



これで大森が嘘をついていた事がはっきりした。
由香と川島の関係を知っている事。
化学の知識を持つ事。
そして女性である事。
大森は真犯人の条件に一致する。



その時、電話がかかって来た。
洋子君が出ると、それは美貴からだった。
なにか慌てているのが分かる。
美貴の家が泥棒に入られたというのだから、それも仕方ない。



俺は美貴の家へと急いだ。
到着した時には警察の捜査も終わり、周囲は何事もなかったかのようにひっそりと静まり返っていた。



怯える美貴だったが俺の姿を確認すると落ち着いてきたようで、当時の事を話し始めた。
由香の見舞いを終え、家にたどり着いたのは午後9時だったという。
すると由香の部屋の方から物音が聞こえたそうだ。



そっと覗いてみると、黒い服を着た男がペンライト片手に部屋の中をかき回していたという。
背中を向けていたため顔は分からなかったようだが、中肉中背だったらしい。
美貴に気付いた男は慌てて窓から逃げて行ってしまったそうだ。



根拠はないが、犯人をどこかで見たような気がすると美貴は言った。



俺は由香の部屋を調べることにした。
部屋に入るとその荒らされた惨状が俺の目に飛び込んできた。



タンスの中まで荒らされている。
金目の物でも探していたのだろうか。
その時、俺は違和感を覚えた。
パソコンの電源は入っていないのにMOドライブだけ電源が入っている。
なぜMOドライブの電源だけ?



コンセントを調べるとやはりMOドライブの電源のみ刺さっている。
以前来た時は確かに抜けていたのだが。



パソコンの電源が入っていない状態でMOドライブを作動させたという事は、MOディスクの出し入れが目的だったことになる。
そう、犯人が探していたものはMOディスクだったのだ。



だがおそらくMOディスクは発見されていないはず。
なぜなら美貴が帰宅した段階でまだ物色していたからだ。
MOはまだこの部屋にあるに違いない。



俺は部屋の中を捜索した。
サイドテーブルの陰に何かあるかもしれない。
しかし暗くてよく見えないな。



俺は電気スタンドをつけた。
すると電気スタンドのカサに四角い影が浮かんだ。
この影、まさか。



俺がスタンドのカサの内側から取り出したのは紛れもなくMOディスクだった。
このディスクの中身については事務所に帰ってから調べることにしよう。



帰り際、美貴が気になる事があると言った。
泥棒を追いかけて来た際、走る男の影を見たと言う。
それが知っている人に似ているように見えたと。
それは刑事の石塚に似ていたらしい。
石塚といえば警視庁から派遣された警視だったはず。
後で熊さんにでも相談してみよう。



俺は事務所に熊さんを呼んだ。
MOの中身を確認するためだ。
さっそくMOの中を覗いてみよう。



パソコンのモニターに映し出されていたのはいくつかの文字だった。
そこに映し出された文字は、しばしの間ここにいる全員の動きを止めるに十分なものだった。
「PCD精製手順 4月15日 大森京子」
そう表示されている。



明らかにこれは大森の事件関与を証明するものだ。
4月15日という日付は由香が失踪した日だ。
由香がこのMOを持っていた理由……
由香を誰がさらったのか……



俺はMOのバックアップを取るように洋子君に指示した。
由香の部屋で見つけた方は、熊さんに証拠として渡しておくとしよう。



このMOがあれば製法が分かり、由香を助けることができる。
しかしそのためには正しいパスワードを見つける必要がある。
パスワードとは一体……



そういえば石塚の事を確認しなくては。
「石塚警視が共犯者だとでも?」
熊さんに美貴が見たことを説明するとやはり驚いていた。



野田が言うには石塚の言動には不可解な部分があるらしい。



しかしその前に大森の身柄を確保しなくては。



大森がおそらく真犯人なのだろう。
共犯者の男の存在も気になる。
しかしこのMOがあれば大森の有罪は確定したも同然だ。
身柄を確保すればすべては明らかになるだろう。
このまま事件は終わりを迎えると俺はそう思っていた……


【第4夜】へ続く


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