俺と熊さんは大森のマンションへとやって来た。
野田は大学へ行っている。
そちらに大森がいる可能性も考えられたからだ。



しかし大森はマンションにはいなかった。
俺は熊さんをここに残し、大学へと向かった。



俺が大学へと着いた時、野田の姿はそこになかった。
一体、野田はどこへ。
とにかく熊さんに報告しておいた方がいいな。



大学前に野田がいない事が妙に気にかかった。
マンションに到着すると、熊さんの姿も見当たらない。
しかし、大森一人が動いたところで……
いや、MOを狙ってきた奴がいる。



二人とも無事ならいいが……
やはり熊さんの身に何か……そう思い始めた時だった。
俺は近くに人の気配を感じた。
塀のところに誰かいる!



俺は人影に歩み寄った。
この男、以前大学周辺で見かけた男だ。



俺は何をしていたのか男に問いかけた。
しかし男ははぐらかすばかりだ。
この男、何かを知っていそうなのだが。
少々気が引けるが仕方あるまい。
俺にはやらねばならない事がある。



「これは警告だ」
口調を強め言った。
大学にも関係する大変な事件が起こっており、警察も必死に捜査を続けていると男に告げた。
「不審な行動をしていると捕まるぞ」



そう言うと男は言った。
「一目だけ会っておきたかった。娘に……」
俺はこの男にあらぬ疑いをかけた事を申し訳なく思った。



「助教授って話だ。化学の……」
なんだって。
この男は大森の父親だと言うのか。
男は語りだした。
「自分の話をする気になるなんて、ムショを出てから初めてだ」



男は10年以上前に麻薬に手を出し、妻と娘に暴力を振るっていた。
それを悔いて娘に会うのをためらっていたようだ。
男は言う。
「娘が堂々と生きているのをみて安心した」と。



そして男は俺に問いかけてきた。
「京子に良い人はいないのか?雅弘どうしてっかな」と。
雅弘?
「京子の幼馴染ですごく正義感の強い子だった」
男は懐かしむように言った。
「京子の事を一生守る、なんて言っていたから」



「彼のフルネームを教えてくれないか」
嫌な予感がする。
「野田雅弘だ」
俺は激しく動揺した。



その時、俺の携帯が鳴った。
熊さんだ。
「警察病院にいる」
熊さんはそれだけ伝えてきた。
俺は熊さんのいる警察病院へ向かった。



熊さんはうなだれながら言った。
「大森を尾行していたら近くの工場へ入っていった」
そう野田から連絡が入ったらしい。



しかし熊さんが向上に着くと野田の姿はなかった。
何かあったのだと思い、工場の敷地内を捜索していた熊さんだったが、その直後気絶させられてしまったという。



それを助けたのが石塚警視だった。
その石塚は熊さんを助けるためにケガを負ってしまった。
石塚は容疑者を追って、偶然現場に居合わせたようだ。



それにしてもなぜ熊さんが襲われたのか……
そうか、あのMOを狙われたんだな。
しかし、どうして熊さんがあれを持っていると……
「幸い、石塚警視のおかげでMOは無事だったが」
熊さんは言った。



失いかける意識の中で熊さんは見た。
野田の姿を。
熊さんの痛みが十分すぎるほど伝わって来た。



熊さんの話からすると石塚はMOを狙った犯人の目星がついているという事になる。
俺は石塚の病室へと向かった。



「MOが発見されてから熊野警部の手に渡るまで、それほど時間はなかったはずだ」
石塚は続けて言う。
「にも関わらずそいつを知り得た奴」
そして野田が怪しいと睨んだらしい。



俺は待合室まで戻り、気落ちする熊さんに付き添った。
しばらくすると疲れからかウトウトしてしまっていた。
「撃たないで」
またあの夢だ。
「この人は絶対に私の事分かってるの」
女はそう言う。
「だから私の所に戻って来たの」



「彼を撃たないで」
そして俺の意識は覚醒した。



どうやらうなされていたようだ。
熊さんが心配そうに見ている。
俺は過去にあった事を熊さんに語った。
ニューヨークで探偵をしていた事。
麻薬中毒の男を追っていた事。



「追いつめられた男はアパートの一室へと逃げ込み人質を取った」
今でも鮮明に思い出される。



捕まったのは男のガールフレンド。
事態は切迫していた。
奴は間違いなく女を殺す。
そう確信できた。



俺は決断しなければならなかった。
そして銃の引き金を引いた。
そして男はそれが原因で命を落とした。



しかし女は無事だった。
「その娘は今どうしている?」
熊さんがそう問いかけてきた。



「元気に働いているよ」
俺はそう言った。
その時の事をどう思っているか聞いたことはないが。



「今もニューヨークに?」
「いや、東京に住んでいる」
熊さんの問いかけにそう答えた。
彼女とは、ほとんど毎日会っている。
「一緒に住んでいる訳じゃあるまいし」



まあ似たようなもんか。
その女とは洋子君だ。
彼女はその事件の数年後、俺の事務所へとやって来た。
助手にしてほしいと言って。
結局受け入れはしたが、最初は彼女の行動に戸惑いっぱなしだった。



どんな理屈を並べても言い訳になりそうな気がした。
でも別に悩む事を放棄した訳じゃない。
彼女がそうしたように俺も自分の行動を信じることにした。



俺は熊さんと別れ、事務所に戻って来た。
洋子君も美貴も出かけているらしい。
よく見ると留守電のランプが点滅している。
俺はメッセージを聞いてみることにした。



何だこれは……間違い電話?
いや洋子君の声だ。
誰かと会話しているようだが、相手の声もどこかで……
この声は大森京子だ!
妙だな、なぜ洋子君が大森京子と話を。



しかし聴き取りにくい。
そうだ、鑑識課なら何か見つけてくれるかもしれない。
「会話部分の音声をクリアにしてもらいたい」
俺は鑑識課の三好に頼んだ。



事務所に帰った俺に電話がかかって来た。
大森京子だ。
「私と取引しない?」
大森はそう言ってきた。



やはり洋子君は大森と一緒にいるらしい。
大森の目当てはMOのコピーだった。



「それを持って30分以内に渋谷駅に来て」
大森は言った。
俺はMOをケースに入れ、内ポケットにしまい込んだ。
大森が洋子君たちを拉致している可能性は現段階では否定できない。
俺は指示通りに渋谷駅へと急いだ。



渋谷駅に着くと再び大森から電話が入った。
「今から5分後に発車する電車に乗りなさい」
電車に乗り込んだ俺は大森からの連絡を待つ事にした。



「もうすぐ川に差し掛かるわ。そこの河川敷で窓からMOを捨てなさい」
大森の指示はこうだった。



洋子君は無事なのかという俺の問いかけに大森は答えた。
「次の駅の伝言板を見なさい」と。
指示に従わなくてはならない。
俺は窓を開けると、MOを投げ捨てた。



電車を見送る大森の姿が見えた気がした。



次の駅で下車した俺は掲示板を探した。
大森からのメッセージが残されているはずだ。
「SEE YOU NEXT TIME」
掲示板にはそれだけが書かれていた。


手がかりが途絶えてしまった。
その時、鑑識課の三好から連絡が入った。
「解析結果が出ましたよ」



三好は会話部分だけを抽出してくれていた。
やはり洋子君と大森の声に間違いないようだ。
これは盗聴。
大森との会話をこっそり流しているんだ。
会話から推測すると、洋子君は大森に拉致されている。



このテープには二つのキーワードがあった。
「もうすぐ着く」「川中湖よ」
拉致された洋子君は俺に居場所を知らせる為に……
こうしている間にも彼女には危険が迫っている。
洋子君は川中湖の近くに拉致されている。



そしてその場所が大森の隠れ家だとしたら、行方不明になっている女性たちもそこにいるかもしれない。
今は単独で行動した方がいい。
野田が大森に加担しているからだ。
警察には言えない。



俺は川中湖を4つのポイントで捜索することにした。
この4か所を徹底的に捜索すればきっと。



大森はMOを手に入れて油断しているはず。
居場所を突き止めるなら今がチャンスだ。
俺は車で川中湖周辺へとやって来た。
俺の判断が間違っていなければ、洋子君は湖からそう遠くないところで拉致されているはずだ。



昼までに発見できなかった時は、警察に動いてもらうしかあるまい。
それ以上、時間を伸ばすことの方が彼女たちには危険だ。
その時、熊さんから電話が入った。
「今どこにおるんだ?」



「ちょっと訳があって川中湖にいるんだ」
そう言うと熊さんが驚きの声をあげた。
「川中湖だと。洋子君の事でか!?」



「ワシが電話したのは、その洋子君の事なんだ……」
熊さんの声は沈んでいる。
「洋子君がどうかしたのか!?」
嫌な予感がする。



「洋子君が死体で見つかったそうだ……」



俺は目の前が真っ暗になった。


【第5夜】へ続く

 


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