ベトナム戦争では、世界中からジャーナリストが集まって取材を繰り広げた。直接の当事国ではない日本からも多くの新聞記者やフリーランスのカメラマンなどが向かい、文字通り最前線で取材活動をおこなった。
そのなかで作家の開高健のべトナム体験記、と聞くと、「大作家がとってつけたような提灯取材をしてるんじゃないか」と思うかもしれない。
ところが、さにあらず。開高さんは実に100日にも及ぶベトナム滞在、そして前線への従軍までしているのだった。
独特の調子でユーモラスに描かれる前半は、市街での様子が中心である。抗議デモやクーデター未遂などが起きるものの、どこか余裕がある。
一転調子が変わるのは、ベトコン少年の公開処刑からだ。従軍し、前線で銃撃戦に巻き込まれるに至り、始まったばかりのこの戦争は一体なにか、を見通している。
全編通じて、開高さんの予測が実に的を得ている。ベトナム戦争の末期に思い出して書いているのかと思ったくらいだ。これが雑誌連載だというのだから、開高さんのバイタリティーは凄いもんだ。
まったく気づかなかったのだが、今年はベルリンの壁崩壊に始まる東欧民主化20年目らしい。20年前のあの日、壁の上によじ登った民衆がツルハシのようなものでベルリンの壁に文字通り風穴を開けんとする様子は、その後も繰り返し観ることになった。そして、独裁政権の主は無惨にも骸となって、その姿を全世界に晒すこととなった、あの日から20年。
つい2年ほど前、ボクの会社には旧東ドイツ地域からインターンと称して学生が来ていた。彼女は当時まだ10代で、とするとベルリンの壁崩壊の前後に産まれたことになる。20年前には、東ドイツ市民には旅行の自由がなく、日本に留学なぞ夢にも思わないことだっただろう。
本書は、その東ドイツの国境が開かれた日を巡る市民たちの心の揺らめき、そして、長きに渡って独裁政治を繰り広げたチャウシェスクのルーマニアが倒れるまでを、文字通り足を使ってインタビューしてまわったルポルタージュである。
今思い起こしても、なぜ突然に、雪崩を打つような東欧の崩壊があったのか、それはよくわからない。理由は色々とあろうが、それにしてもなぜあの瞬間にすべてが重なったのか。歴史の綾を目の当たりにしたボクたちは、今もなお考える。
東欧民主化の流れを個人の体験から解きほぐそうとする作者の視点が、正確な取材と相まってすばらしい作品を生んだと言える。名著は時代を超えて、とは褒め過ぎかもしれないが、この本の前半部分(東ドイツの章)に関しては、今年8月に別名で再発売されたようだ。絶版で良質なノンフィクションが消えてゆくのが寂しいので、こうした復活は存外嬉しい。
『きのうの祖国』杉山隆男/ちくま文庫
「世界」崩壊 それはベルリンで始まり、日本で続いている (講談社プラスアルファ文庫)/杉山 隆男

つい2年ほど前、ボクの会社には旧東ドイツ地域からインターンと称して学生が来ていた。彼女は当時まだ10代で、とするとベルリンの壁崩壊の前後に産まれたことになる。20年前には、東ドイツ市民には旅行の自由がなく、日本に留学なぞ夢にも思わないことだっただろう。
本書は、その東ドイツの国境が開かれた日を巡る市民たちの心の揺らめき、そして、長きに渡って独裁政治を繰り広げたチャウシェスクのルーマニアが倒れるまでを、文字通り足を使ってインタビューしてまわったルポルタージュである。
今思い起こしても、なぜ突然に、雪崩を打つような東欧の崩壊があったのか、それはよくわからない。理由は色々とあろうが、それにしてもなぜあの瞬間にすべてが重なったのか。歴史の綾を目の当たりにしたボクたちは、今もなお考える。
東欧民主化の流れを個人の体験から解きほぐそうとする作者の視点が、正確な取材と相まってすばらしい作品を生んだと言える。名著は時代を超えて、とは褒め過ぎかもしれないが、この本の前半部分(東ドイツの章)に関しては、今年8月に別名で再発売されたようだ。絶版で良質なノンフィクションが消えてゆくのが寂しいので、こうした復活は存外嬉しい。
『きのうの祖国』杉山隆男/ちくま文庫
「世界」崩壊 それはベルリンで始まり、日本で続いている (講談社プラスアルファ文庫)/杉山 隆男

この夏は村上春樹の「1Q84」がとっても売れました。ボクは読んでません。ごめんなさい。でも、代わりと言っては何ですが、別の「1984」は読みました。ジョージ・オーウェルの傑作「1984年」です。
近未来の年号を冠した小説といえば「2001年宇宙の旅」と並び称される「1984年」ですが、現在は2009年。気がつけばすっかり過去になってしまいました。
この「1984年」が発表されたのが1949年。社会主義(共産主義)と資本主義の対立が先鋭化していたころであり、本書で描かれる全体主義的な社会は当時非常な恐怖として捉えられていたのだということです(新訳版の解説を読むと、作者は必ずしも反共を意図していた訳でもなさそうですが)。
全体を覆う陰鬱とした雰囲気もさることながら、あまりのバッドエンドぶりに、本書が発表された戦後間もない時代を感ぜずにいられません。
一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)/ジョージ・オーウェル

近未来の年号を冠した小説といえば「2001年宇宙の旅」と並び称される「1984年」ですが、現在は2009年。気がつけばすっかり過去になってしまいました。
この「1984年」が発表されたのが1949年。社会主義(共産主義)と資本主義の対立が先鋭化していたころであり、本書で描かれる全体主義的な社会は当時非常な恐怖として捉えられていたのだということです(新訳版の解説を読むと、作者は必ずしも反共を意図していた訳でもなさそうですが)。
全体を覆う陰鬱とした雰囲気もさることながら、あまりのバッドエンドぶりに、本書が発表された戦後間もない時代を感ぜずにいられません。
一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)/ジョージ・オーウェル
